【サステナビリティ時代の戦略眼と現実解 メルマガ Vol.16 2025年12月29日号】 「一人ひとりが生み出すマイクロイノベーション」が未来を作る時代へ

今年のノーベル経済学賞を受賞したフィリップ・アギヨン氏は著書『創造的破壊の力 資本主義を改革する22世紀の国富論』の「終章 資本主義の未来」において、次のように締めくくっています。


最後に「未来の資本主義はどんな形になるのか」という問いに対しては、アンリ・ベリクソンの言葉で答えたい。「未来はこれから行くところではない。これから作るものである」。


2025年は、皆さまにとりまして、どのような1年でしたでしょうか? 日本社会全体としては、
大国の関税政策に振り回され、AIがけん引する株高に喜びつつも不安を感じ、賃金アップとはいえ物価上昇に追いつかず暮らし向きに厳しさを感じた年ではなかったでしょうか?

1.AIエージェントの拡がりと経済成長戦略

 今年は、AIエージェント元年と言われた年でした。日本での導入は他国に比較して出遅れているものの、業務効率化として先進的な企業で根付き始めているようです。
 日本政府は「AI基本計画」を決定し、品質の高いデータを強みとした得意分野であるフィジカルAIで反転攻勢を狙っています。ビッグテックなどが凌ぎを削っている分野ではなくニッチ戦略に挑むことになりますが、そもそも、成功者バイアスになっていないだろうか、DXが立ち遅れている状況で普及し浸透するか気がかりでなりません。

2.新たな創造的破壊の可能性

 どの国の政府も、経済成長の基盤となる技術開発を目的として支援策を打ち出します。
 経済学には「収穫逓減の法則」と「限界効用逓減の法則」という言葉があります。すでにレッド―シャンと化した生成AI関連分野にも停滞する時がきます。変化の速いこの分野では、早々に創造的破壊が起こるでしょう。来年かも知れません。競争優位性を目的とした日本のニッチ戦略は、時間との勝負となります。

 こうした技術や経済の大きなうねりの中で、いま改めて問われているのは、一人ひとりが、何を価値あるものとして生きるのかという視点です。

3.モノの消費、コトの消費、そして、本元的な意味へ

 私たちにとって、技術は暮らしを便利なものにしてくれる手段(道具)です。しかし、成熟化した今日の社会では、モノの消費である利便性だけでなく、コトの消費である心豊かさも求められます。
 コトの消費で本当に大切にされるのは、自分が叶えたいと願っていることの「本元的な意味」です。 

4.「本元的な意味」に生きるということ

 「本元的な意味」に生きるとは「個人が、主体的に、自らの価値観・生き方・キャリアを選択して、自分で自分の物語を構築していく」ということです。
 個人化した社会は、伝統・家族・企業・社会が人生の意味を規定することのない社会ですが、一人ひとりは、他の人たちの「本元的な意味」を尊重し、相互のやりとりを通して関係を構築します。個人化した社会は、関係性を拒み他人を排除する社会ではなく、多様性を包摂する社会です。

5.「潜在する本元的な意味」の気づき

 現在の生成AIは、コンテンツ(画像、音声、動画など)とコンテンツをつなぎ新たなコンテンツを生成し、また、既存の知識と知識をつないで体系づけて無味乾燥で啓蒙的に提示をすることもできます。新たな知識を創造するにも技術を媒介として行うことができるようになったのです。
 この提示を受けた時、人は、思いもよらぬ知識に触発されて「潜在する本元的な意味」に気づき、他の人たちと共有する新たな「意味」を創り出すことにもなります。こうした瞬間に生まれる「意味の気づき」こそが、未来社会を照らす一筋の明かりになるのではないでしょうか。

6.自らの内にある「本元的な意味」に気づき、言葉にし、他者と共有することを支援する創造型AI

人とAIが協働し協創して意味を創造する生成AIを、当社では創造型AIと命名しています。

  • 創造型AIは、人が自らの内にある「本元的な意味」に気づき、言葉にし、他者と共有することを支援します。

 一人ひとりが創造型AIとともに「本元的な意味」を見つけ、多様性を包摂する社会を築いていく。
 今、個々人の小さな創造が無数に生まれ、相乗し、融合して社会を変えていくマイクロイノベーションの時代が近づいています。これは、生成AIが切り拓く未来像であり、ブルーオーシャン戦略でもあります。


ここで、マイクロイノベーションとは『個人化した多様性を包摂する社会に向けて、多様な個々人が生み出す小さなイノベーションが無数に立ち上がり、それらが相乗し融合しながら、社会の中で人々の間に形成されている意味や社会的文脈を、自己更新・自己再生し続ける形で変容させていくイノベーション』です。


本メルマガは弊社ホームページのコラム “未来への歴史” と連携して作成しています。 “未来への歴史” という名称は、サステナビリティの未来社会を思い描いて日々書き綴った記事を「思考の歴史として振り返ることができるようにしよう」と意図して命名したものです。

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【参考文献】

  1. フィリップ・アギヨン,セリーヌ・アントニン,サイモン・ブネル著、村井章子訳、「創造的破壊の力 資本主義を改革する22世紀の国富論」、東洋経済新報社、2022.12.8 (原著 2020)

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