#344 戦略眼と現実解 本元的意味循環型のソーシャル・エコシステムとは何か

なぜ、ビジネス・エコシステムでは足りないのか (なぜ、ソーシャル・エコシステムなのか)

当社が向き合っている背景には、社会や組織の前提そのものが変わりつつあるという認識があります。

  • 人はもはや、同じ価値観や役割を前提に動く存在ではありません。
  • 一人ひとりが異なる感性や関心、時間感覚を持ち、それぞれの文脈の中で意味を見出し、行動しています。

こうした個人化した多様性を包摂する社会においては、価値や方向性を一つに揃えることよりも、多様な意味が交わり、影響し合いながら動き続ける状態をどうつくるかが問われます。この問題意識が、当社が「ビジネス・エコシステム」という言葉をあらためて問い直している理由です。

1.なぜ、いま「エコシステム」を問い直すのか

近年、「エコシステム」という言葉は、ビジネスの文脈で広く使われるようになりました。

  • プラットフォームを中心にした産業連携
  • 企業間の役割分担と価値分配
  • 技術やデータを軸にした競争優位の構築

これらは確かに重要です。しかし私たちは、ある違和感を持ってきました。

それらはすべて、「価値があらかじめ定義されている世界」を前提にしているのではないでしょうか。

環境が不確実で、価値そのものが揺らぎ続ける時代において、本当に問われているのは、価値をどう配分するかではなく、価値がどう立ち上がり続けるかではないでしょうか。

2.出発点は「本元的意味循環型」

当社が、出発点に置いたのは、産業構造でも、技術でも、制度でもありません。
置いたのは、人の内側で起きていることです。

人は、

  • 違和感を持ち
  • 問いを立て
  • 試し
  • 誰かと共有し
  • 影響を受け、また考え直す

という循環を繰り返しています。この、「意味が生まれ、揺らぎ、更新され続ける動き」を、当社では『本元的意味循環』と呼んでいます。

ここで言う「本元的意味」とは、

  • 理念やスローガンとして示されるもの
  • 合意形成のために整理された価値観
  • 構想段階にとどまっている将来イメージ

ではありません。行為を生み出してしまう意味、つまり、「なぜ、それをやってしまうのか」「やらずにはいられない理由」のことです。

2.1. なぜ「循環型」なのか

意味は、一度定義して終わるものではありません。

  • 行動によって試され
  • 他者との関係の中でズレ
  • 文脈によって書き換えられ
  • また次の行動を誘発する

この往復運動そのものが、意味を生かし続けます。重要なのは、意味を固定しないことです。

  • 固定された意味は、やがてスローガンになり、やがて形骸化します。
  • 循環している意味だけが、人を動かし続けます。

2.2. 「本元的意味循環型」から「ソーシャル・エコシステム」へ

意味は、個人の中だけでは完結しません。意味は、

  • 共有され
  • 誤解され
  • 揉まれ
  • 影響し合い

関係の中で増幅・変質していきます。

ここで初めて、エコシステムが立ち上がります。ただしそれは、

  • 企業をノードとしたネットワーク
  • 役割が決められた分業構造

ではありません。

  • 意味が行き交い、行為が連鎖し、誰も全体を設計していないのに動き続けてしまう関係の場

これを当社では『ソーシャル・エコシステム』と呼びます。

3.ビジネス・エコシステムとの違い

ここで一度、一般に語られる「ビジネス・エコシステム」と当社が言う「ソーシャル・エコシステム」を、同じ言葉を使いながら、あえて並べて見てみましょう。両者は似た概念に見えますが、出発点、捉えている対象、そして目指しているものが大きく異なっています。

観点ビジネス・エコシステムソーシャル・エコシステム
出発点事業・価値・技術意味・行為・関係
中心中核企業・プラットフォーム中心は存在しない
成り立ち設計して作る多様な個人の感性や行為が、関係の中でフュージョンしながら自律して、自然に形を成していく
管理オーケストレーションフュージョン
目的価値の最大化意味生成の持続

 

私たちが「ソーシャル」と呼ぶのは、CSR的な意味ではありません。
人と人の相互作用そのものが、システムを自己生成してしまうという意味での「ソーシャル」です。

ここで「自律」とは、意思決定権を個人に移すことを意味しません。

  • 一人ひとりが、自らの専門性の範囲で問題意識を持ち、状況の変化に応じて何をすべきかを判断し、他者に働きかけながら協働し、必要であれば上司や組織に提案を行う
  • そうした相互のやりとりを通じて、組織としての判断が形づくられていく状態

を指しています。なお、当社では、組織を固定的な構造としてではなく、相互のやりとりの中で意味や判断が立ち上がってくる存在として捉えています。

3.1. なぜプラットフォームにしないのか

プラットフォームは強力です。しかし同時に、こうした性質を持ちます。

  • 境界を定める
  • ルールを固定する
  • 参加の仕方を規定する

これは、意味の循環にとっては強すぎる統制の仕組みです。

意味は、

  • 予定外の解釈
  • 意図しない使われ方
  • 想定外の関係

から生まれます。その余地を残すために、当社ではあえてプラットフォームにしないという選択をしています。

4.本元的意味循環型のソーシャル・エコシステムとは

改めて、「本元的意味循環型のソーシャル・エコシステムを以下に定義します。

本元的意味循環型のソーシャル・エコシステムとは、マイクロイノベーションとして生起した意味生成的行為が、つながり ↔ 関係 ↔ 融合を通じて共鳴し、その共鳴が新たな意味生成を誘発し続け自己生成循環である。それは設計・制御・最適化されるものではなく、社会や組織が動いてしまう余地として存在する。

5.経営・プロジェクトにとって何が変わるのか

この考え方を前提にすると、経営やプロジェクトにおける問いそのものが変わります。

  • 「何を作るか」ではなく→ 意味が一度きりで終わらず、循環し続けているか
  • 「誰が主導するか」ではなく→ 意味が人と人の関係の中で更新され、エコシステム自体が自己生成しているか
  • 「成果が出たか」ではなく→ その更新された意味から、次の行為が自然に生まれ続けているか

このときプロジェクトは、誰かが設計し、管理し、牽引する対象ではありません。

  • 意味が立ち上がり、関係の中で書き換えられ、その結果として行為が連鎖していく――その循環が途切れていないか、余地が失われていないかに、あえて結論を急がず、向き合い続ける対象になります。

6.まとめ

本元的意味循環型のソーシャル・エコシステムとは、

  • 事業モデルではなく
  • 組織論でもなく
  • ITアーキテクチャでもない

人の意味生成が、社会的な循環として立ち上がり続ける条件そのものです。

 当社では、この条件を経営やプロジェクトの前提に置くことで、業種や技術に依存しない変革の軸を持てると考えています。
 これにより、社会システムの構想は「新規事業開発 × ソーシャル・エコシステム戦略構想 × ディスラプション構造」へと展開していくことができます。

サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一

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