システムや機器・設備など、何かの仕組みを新たに開発して、社会の中に導入し、継続して運用できるようにするならば、その取り組みを「社会実装」と表現することができます。特に、ある人が必要とされる利便性を提供するだけでなく、多くの人々にとって共通する利便性を提供する仕組みについて用いる表現です。

1.社会実装サイクル
「社会の発展」には、[1] トレンドがあり、[2] 発展の方向性もあります。[3] イノベーション(不連続な創造的破壊と新結合)によって実現される機能が社会発展の分水嶺となり、[4] 社会変革がなし遂げられていきます。
それと同時に、社会は色々な要素が複雑に絡み合いながら継続して発展していくものです。上記の「社会発展」の流れは、一巡して終わるのではなく、それまでに起きた[1]~[4]のサイクルが次なるサイクルの呼び水となって、新たなサイクルを生み出します。当社では、この社会のダイナミックな動きを「社会実装サイクル」と呼んでいます。
2.社会実装サイクルを支える複雑系システム
自由主義経済の社会においては、社会実装サイクルを動かす機器や設備やサービスの市場も発展していきます。その市場にも、(1)社会発展の分水嶺となる新機軸の創造期、(2)導入期、(3)成長期、(4)成熟期、(5)衰退期 といった「市場のライフステージ」が形成されます。
それと同時に、その市場の中では、マーケティングやセールス、サプライチェーン、物流や流通、消費、リサイクルといった様々な経済活動が展開されます。そして、こうした経済活動を担うアクター(事業者や消費者)が展開する活動は協創して発展していく関係にあります。当社では、こうした協創システムを「ビジネスエコシステム(略して、エコシステム)」と呼んでいます。
事業者も切磋琢磨しながら成長していくことになりますが、その市場に参入する時点で保有している技術力や経営資源に応じて、市場への到達点、経営状況に差(優位性や劣位性)が生まれます。そうした差を活かしたり解消したりするために様々な戦略が講じられることになります。当社ではこれを「事業のライフステージ」と呼んでいます。
3.経営戦略:成長マトリクスの拡張
経営戦略の分野では「アンゾフの成長マトリクス」が有名で教科書知識になっています。市場を[既存市場/新市場]、自社の事業を[既存事業/新事業]に分けて、これらをかけ合わせてできるマトリクスに応じて採るべき戦略を4分類(市場浸透戦略、新市場開拓戦略、新製品開発戦略、多角化戦略)したものが「成長マトリクス」です。
しかし、画一的な商品の大量生産・大量販売・大量消費・大量廃棄というマスマーケットを対象とした時代ではなくなった今日の市場は、様々なアイデンティティと要素技術が複雑に絡み合い業界という境界も失われた競争下の複雑系システムとなり、成熟化した社会における市場でのパイの奪い合いによりライフステージも短くなり、より一層、厳しくなっています。そうした状況にあっては、事業に巨額の投資をして先行できる事業者が市場の趨勢を握るといった状態となっています。
こうした巨額の投資が必要となるの中で生き残るためには、資本提携、業務提携、技術提携、M&A(企業買収)によって投資を抑えつつ新たな技術基盤を確立したり、不足するリソースを拡充して対処しようという動きも活発化してきています。上記エコシステムも、異業種の企業がアライアンスを組んで、リソースを提供し合い相乗効果を生み出していこうという仕組みでもあります。エコシステムは成長マトリクスの枠を超えた取り組みです。
一方、レッドオーシャンを避けてブルーオーシャン戦略を採るべきという考え方も生み出されています(新たな新市場開拓戦略ともいえるでしょう)。また、巨額の投資を呼び込んだスタートアップ企業が新製品で新市場を創造して社会変革を成し遂げるという事例もたくさん生まれていきています。これらは言わば「ディスラプション戦略」ということができます。
このように様々な戦略論が生み出される中で多角化戦略は新製品開発戦略や新市場開拓戦略との境界線が薄れてきているようにも見えます。当社では、「アンゾフの成長マトリクス」を拡張して、下記の成長マトリクスを描いています。

4.「社会実装サイクル」を実現する HIM(Holistic Integration Model)
HIM(Holistic Integration Model)は複雑系社会を支える経営のフレームワークです。その目的は「他社に真似のできない希少性を構築し、その有用性により社会への影響力を確立すること」です。それは、個々の企業の範囲を超えたビジネスを展開していこうというものであり、まさに、エコシステムの構築がカギを握っています。
しかし、この構築されるエコシステムは、単なるアライアンスではありません。社会を俯瞰した視点で、ダイナミックに「社会実装サイクル」を実現し、新たに巻き起こしていこうという目的を共有する「意味のネットワーク」によって結びつけられたディスラプション戦略によって成就されていくものなのです。
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一