#323 戦略眼と現実解 HIM “Holistic Integration model”  複雑系化した社会における経営のフレームワーク

本コラムの概要は こちらの動画 をご覧ください。(3分)   (本動画は 株式会社X のWrite Video で作成しています)

1.はじめに:複雑系化した社会と経営

 社会の不確実性が加速度的に高まる現代において、経営には、単なる計画や管理ではなく、複雑な関係性を読み解き、全体の構造を組み直す知的な取り組みが求められます。そのためには、断片的な知識ではなく、意味をつなげて全体を見渡し統合する視座が求められます。

 今日のアイデンティティ化が進んだ時代においては、個々の顧客が求めている経験価値を提供してしければなりません。それは画一的にモデル化された顕在的ニーズではなく、新たな意味づけによって価値づけられた潜在的ニーズでもあります。

 このコラムでは、複雑化した社会における経営の新たな知的枠組みとしての Holistic Integration Model(HIM) のコンセプトについて解説します。

 

2.HIMの基本構造:三層構造モデル

 HIMは、「経営基盤」「戦略基盤」「変革基盤」という3つのレイヤから構成されています。これらは静的な階層ではなく、知と実践、仮説と推論、抽象と具体がダイナミックに連携し合う構造としてモデル化されています。

2.1 経営基盤:セマンティック・インテリジェンスの土台となる基盤

 この層はHIMの深層を担い、次の3要素で構成されています。

  • ダイナミック・アブダクション:目の前で起きている事象に対して、目の前で起きている現象に隠された普遍的な要因を掘り下げ、細部に宿っている真実を発見する仮説推論の手法です。
  • 意味の意味づけ:現象を単なる数字の羅列としてではなく、能動的に意味を見出していく思考形式です。
  • マネジメントインサイト:明示されていない事象・構造・真因に対して、“新たな見方”や“本質的なつながり”を見出すマネジメントに関する洞察であり、形式知でも暗黙知でもない「意味の再構成」によって事象の深層構造を捉える知的発見でもあります。

2.2 戦略基盤:ビジネスエコシステムとライフステージ戦略

 顧客の経験価値を提供するためには、顧客自身が気づいていない「新たな意味」を戦略的に創造する仕組みが求められています。この戦略基盤層では、セマンティック戦略として、以下の構造からなります。

  • ビジネスエコシステム(サブサイクル):社会実装サイクル(下記参照)のサブサイクルであり、マーケティング&セールス、サプライチェーン、物流と流通、消費、リサイクルからなるサイクルです。ここで求められる戦略は、全ての過程が連携し合い協働するビジネスエコシステム戦略です。
  • セマンティック戦略:セマンティック・ビジネスエコシステムを展開するための戦略です。アンゾフ成長マトリクスを拡張したセマンティック成長戦略(経営戦略)の下で、セマンティック・マーケティング戦略、セマンティック・エコシステム戦略(顧客経験価値を創造し提供する具体的なアライアンス戦略)へと、カスケードによる戦略展開されていきます。
  • 事業のライフステージ:市場ライフステージ(下記参照)に対して、自社の事業の到達点(STAGE in〜STAGE out )と事業の状態(減少〜増大)のマトリクスで捉えた、自社の事業のライフステージです。
  • 投資戦略:景気動向(成長/縮小)× 財政状況(潤沢/逼迫)の4象限マトリクスに基づいて、自社の事業のライフステージに必要な経営資源を投入するための事業への投資戦略です。

2.3 変革基盤:社会実装サイクルとディスラプション

最上位層にある変革基盤層は「社会への実装」そのものの基盤となる層です。

  • 社会実装サイクル:「長期的なトレンドに対する社会発展の方向性があり、イノベーションによる社会発展の分水嶺によって社会変革が実現される」という連鎖に社会は発展していくというシナリオです。
  • 市場のライフステージ:社会実装サイクルは、現実的には、市場のライフステージが展開されて実現されています。このライフステージは、一般的には「新機軸創造⇒導入⇒成長⇒成熟⇒衰退」という流れに沿って進んでいきますが、企業の経営努力により「成長⇔成熟」、「成熟⇔衰退」と逆流(挽回)されることもあります。

 ここで、特に注目すべきは、社会実装が市場ライフステージを逆転させる「ディスラプション」です。他社に真似できない希少性と、その有用性による社会的影響力がディスラプションの条件となります。 社会実装サイクルと市場のライフサイクルに関する詳細の検討は 社会実装サイクルと事業の成長モデル をご参照下さい。

3.意味ネットワーク辞書

 HIMの全ての機能は、当社が独自に開発した 意味ネットワーク辞書によって意味的に接続されて定義されています。

 意味ネットワークは、ダイナミック・アブダクションの仮説推論を補完する仕組みであり、「インサイトからバリュー・エレメント(価値要素)を導き出し、エコシステムとしてバリュー・エレメント(価値要素を戦略的に結びつけてバリュー・プロポジション(価値提案)へとつなげていく、シナリオを構想するための基礎となるものです。

4.スマイル曲線の再構築とHIMの位置づけ

 従来のスマイル曲線では、設計やブランドなどの両端に価値が集中し、中間の製造工程は付加価値が低いとされてきました。

 HIMはこの構図を反転させ、設計・製造・流通・再利用までを統合的な意味構造として再設計し、全プロセスで希少性と影響力を創出するフレームワークとなるものです。エコシステムによる「他社の真似のできない希少性の構築と、その有用性による社会への影響力の確立」は社会変革の必要条件であっても十分条件ではありあません。スマイル曲線の再構築(反転)によって産業構造そのものが変容することで、社会変革は成し遂げられていくのです。

サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一

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