#162 ポストグローバル社会になる

 経済成長を牽引力としてグローバル化が進展してきたが、次第に、グローバル規模で経済の成熟化が進み社会も成熟化していく。

 経済の成長力の衰えは失業問題を引き起こし、雇用を求めて社会不安が広がっていく。こうした土壌の下で、一国主義や保護主義等による分断社会、あるいは、地域や民族の独立の機運の高まりなどが世界中に広がっていく。自由な経済活動は国や民族という枠を取り除いて世界中の人たちの交流を深めていくが、それ以上に、既得権益を持つ人たちに一国主義や保護主義を訴えて当選した政治家が力を持ち、自国の安全保障の名の下に世界に武力行使を選択肢として不安を煽り建てていく。そうした風潮は、他国へと波及し、世界中が一国主義や保護主義等による分断社会への先鋭化競争へと向かっていく。どんなに民主的な国家であろうとも、一国主義や保護主義等による分断社会への風潮が圧倒的に強くなると、それに異を唱えることは難しくなる。

 一方、経済がグローバル化した今、一国主義や保護主義等による分断社会の台頭は、ビジネス環境を閉鎖的にするゆえに国民に不利益をもたらす。戦争への不安を煽ることで軍需産業を潤すことができるが、実際に武力を行使する事態になれば国や国民は莫大な費用を背負わなければならない。経済的余力によって一国だけで他国を圧倒できる国はなく、正義をかざすだけで国民に多大な犠牲を強いることができる圧倒的な支持基盤を持つ政治家も存在しない。グローバル社会は薄氷を踏むほどに危ういが、グローバル化した経済がなんとか最悪の状況を回避させる。

 そんな危うい状況の下に、ポストグローバル社会は芽生えて形成されていく。イノベーションという言葉は20世紀初頭に経済成長の理論として打ち出され、経済成長はグローバル社会を生み出してきた。21世紀の今日、イノベーションは社会を変革していくこと、あるいは、社会の変革という社会現象そのものを意味している。社会の変革とは、社会システムを変えることであり、社会的風土(人々の生き方、暮らし方や働き方、行動、思考の仕方、仕草や動作)をも変えることである。それは新たな技術革新や新たな事業が引き金となって巻き興されていく。そして、社会の変革がポストグローバル社会を生み出していく。21世紀のこれからの社会にイノベーションを巻き興していくということは、経済成長のみを意図するのではなく、社会の変革を巻き興していくことであり、ポストグローバル社会を創造していくことでもある。必然的に、これからのイノベーションは、未来社会の発展につながる価値を創造するという意図の下で巻き興されていかなければならないことになる。

 ポストグローバル社会は、社会の持続可能な発展を目指していく社会でもある。限られた地球環境の中では共生していかなければならない。その実現は、国や人種、生まれ育ち、宗教、男女の違いに関係なくなく、多様な人たちが平等に生きることができ、平等に社会に関わり、平等に貢献していける多様性を尊重した社会の実現にかかっている。誰かに偏った社会は、その人に富をもたらせても社会は豊かにはならない。地球にある資源には限りがあり、食料資源にも収量に限界がある。競争によって収益を奪い合ったり、Win-Win で部分最適を図ったりすると、資源は多くの人には行き渡らない。経済成長優先の社会は、自然環境を破壊し、地球温暖化問題を引き起こし、極度の経済格差問題を引き起こしてきた。ポストグローバル社会は、こうした問題を引き起こしてきた発想を転換し、社会の持続可能な発展を目指していく発想によってこそ実現されていく。

サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一

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