#322 戦略眼と現実解 スマイル曲線を反転せよ: HIM(Holistic Integration Model)が導く「意味のイノベーション」への挑戦

HIM(Holistic Integration Model)は、当社が独自に作成したモデルです。その目的は「他社に真似のできない希少性を構築し、その有用性により社会への影響力を確立すること」です。

本コラムの概要は こちらの動画 をご覧ください。(3分)   (本動画は 株式会社X のWrite Video で作成しています)

1.序章:なぜ今、HIMなのか

 産業構造の転換が求められる時代が到来しています。社会の複雑化、価値基準の分裂、多極化する経済の中で、従来型の経済モデルは限界を迎えています。スタン・シーが提唱した「スマイル曲線」は、製品ライフサイクルの中で研究開発やブランド戦略など前後工程に付加価値が集中し、製造などの中間工程は価値が低いとされてきました。

 しかし、この構造は今、変革の兆しを見せています。

◎ スマイル曲線の反転:NVIDIAという時代のアイコン

 台湾Acer創業者スタン・シーによって提唱されたスマイル曲線は、製品の設計やブランド戦略といった両端工程にこそ価値が集中し、製造や実装といった中間工程では付加価値が低いという仮説に基づいています。

 しかし、現代のNVIDIAの戦略は、この曲線を見事に反転してみせています。製造を担わず(ファブレス)、ミドル層において「ソフトウェア・プラットフォーム」「GPUを用いたAI基盤の意味的提供」「開発者コミュニティの構築」など、設計と利用価値の意味連鎖を統合しています。これは中間工程を単なるコストではなく、社会的価値を創造する“意味の場”として再構築した結果であると言えます。これは、HIMが志向するスマイル曲線の反転に向けた 経営戦略の象徴的事例 と見ることができます。

2.HIMとは何か:構想の核

 HIM(Holistic Integration Model)は、単なる経営理論ではありません。それは、社会と経済と意味をつなぐ統合戦略の中核を担うモデルです。I2VE2VP(顧客インサイト→価値要素→価値提案)へのストーリーラインは、個々の人の抱く意味を起点として、意味ネットワークによって社会的価値へと至る動的構造を描いたモデルです。SME HIM Meaning Network 辞書は、そのためのプラットフォームとなるものです。 詳細は HIM “Holistic Integration model”  複雑化した社会を支える経営のフレームワーク をご参照ください。

3.「影響の経済」への転換

 20世紀が「規模の経済」、21世紀初頭が「範囲の経済」でした。アイデンティティの時代、映えの時代となったこれからの時代は「影響の経済」です。モノやサービスの利便性を超え、意味の希少性が価値となります。他社に真似されない“構造”そのものを作り上げ、社会に対する影響力を戦略的に構築する時代です。

4.思想の根源:実存・公共・意味構造

HIMは思想的にも深い根を持っています。それは単なる経営技術ではなく、現代社会における主体性、構造、公共性の再定義でもあります。

  1. サルトル的実存主義は「人間はまず存在し、意味はその後に与えられる」とする。すなわち、人間は与えられた状況の中で自らの選択と行動によって意味を生成する存在である。HIMにおける価値構築の出発点も、状況的・歴史的文脈の中で意味を生きるという実存的視座に依拠している。
  2. ルーマンのシステム論は、社会を「相互に閉じた自己言及的なサブシステムの連関」として捉える。そこでは個別のシステムが環境の複雑性に応答しながらも、自律的に再帰し続ける構造を持つ。HIMはこの考え方に立脚し、ビジネスや社会実装の各領域を、相互接続されながらも独立した再帰システムとして設計する視点を提供する。
  3. ハーバマスの公共性の理論は、正当性があらかじめ与えられるものではなく、「社会的な対話と合意形成のプロセス」によって生成されるとする。HIMの価値構築は、顧客・社会・市場との多層的な対話を通じて、意味を共創し、正当性を社会的に構築していくアプローチと一致している。

 これら三つの思想は、HIMにおける「意味の統合」と「価値の社会的共創」という基盤を哲学的に支えるものです。HIMを核にしたビジネスエコシステムは、個別の企業戦略を超えた“社会実装可能な構造”としての意味を持っています。そこでは、主観的な価値観と社会的正統性とが同時に存在し、意味の経済として新たな産業を創出することになるでしょう。

5.トレンドの「意味の意味づけ」

 トレンドは客観的な出来事ではありません。主体性を持って能動的に捉えた「意味の構造」です。私たちはトレンドを、[①対象とその論点][②今の在り様(数字の傾向)][③将来の在り様]⇒[④トランスフォーメーション]という構図で意味づけしなければならなりません。それは単なる未来予測ではなく、社会の方向性を創造する営みへとつながっていくものとなります。

6.ダイナミック・アブダクションの活用

 VE2VPの核技術としての「ダイナミック・アブダクション」は、仮説をメタレベルで生成していくプロセス、それを詳細構造の仮説推論に展開するプロセスによる意味の構築からなります。それは、①顕在する現実から抽象的な構造へと昇華し、②そこから再び現実の行動へと降りていく 2つの方向へのプロセスでもあります。この仮説推論のプロセスの中で「意味のイノベーション」が創出されます。

7.シナリオ構築とローリングプラン

 急激な変化の中にあって、長期的シナリオを描くことはもはや不可能であり、無意味でもあります。当社では、常に、5年後という視点で描いた「ローリングプラン」が有効であると考えています。HIMでは、意味ネットワークと仮説推論の思考技術を用いながら、仮説の更新と戦略の進化を同時に実現して参ります。

8.意味の経済が開く社会変革の道

 スマイル曲線を反転させること。それは単に構造を変えるというだけではなく、意味を持ち込むことによって、構造そのものを変革することを意味します。HIMは、意味のイノベーションと社会実装の統合によって、真に影響力のある戦略を創出し、産業と社会の交差点に新たな道を拓こうとしています。

サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一

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