#331 戦略眼と現実解 「希少性のある意味を創造する思考」を引き起こすテクニック

 #330 戦略眼と現実解 暗黙知は意味の創造的思考にどのように関与するのか で示しましたように、私たちは 『志向性⇔創発境界制御の原理暗黙的コンプリヘンション(包括=理解)内在化するから内面化する』 という暗黙知が作用するプロセスを通して創造的思考を行っています。このプロセスは無意識の内に、かつ、自律的に、相互に影響を及ぼし合い、ダイナミックにフィードバックを繰り返しながら展開されます。

 逆に、こうした暗黙知が作用するプロセスがあることを逆手にとって、創造的思考を効率よく引き起こす方法を導き出そうというのが、本コラムの目的です。

1.「希少性のある意味を創造する思考」の深度モデル

 希少性のある意味を創造する創造的思考を巡らせるといっても、私たちは、いきなり深い思考ができている訳ではなく、まずは、身近なことから考え始めます。しかし、この段階の思考だけでは思いつきでしかなく、誰もが考えつくものであり希少性は宿っていません。そこで、徐々に思考を深めていくことになります。この「意味創出の深度モデル」では、思考を深めていく過程を段階化し、各段階のステージゲートを定めて(ステージゲートで要請される跳躍)、そのために必要な方法論を拡張推論メタ方法論(跳躍のための原理)として提示しています。

 「意味」は、日常の再解釈から始まり、既存の機能や構造の超克、文脈や関係性の再構築、価値や規範の転換を経て、最終的には自己の存在そのものを問う深度へと至ります。つまりこのモデルは、「意味を希少な価値として創造する」ための、思考の深まりと飛躍の構造を体系的に示した枠組みです。

 

2.希少性のある意味の深掘り

※以下、書式は当社においてデザインしていますが、文章は ChatGPT 4o とやりとりしながら作成したものです。

深度1 表象的意味(認識・知覚のパターン)

[1] 意味の次元 「日常文脈の再解釈(Reframing of the Familiar)」

  • 深度1では、人間の意味づけがまず依拠する「表象=見えているもの(知覚・認識・象徴・記号など)」の水準で意味が形成されます。これは私たちが日常的に使っている「ものの見方」「言葉のラベル」「視覚的/文化的イメージ」などが含まれます。 この表象的意味は、当たり前で疑う余地がないとされがちですが、実は習慣や慣性に強く依存しており、「意味」そのものを固定化してしまいます。したがって、この次元での創出とは、“見えていたものの意味を再構成する”という行為、すなわち日常文脈の再解釈にあたります。

[2] ステージゲートで要請される跳躍 「既視感からの跳躍(Breaking the Familiarity Trap)」

  • このステージゲートでは、見慣れたものや聞き慣れた言葉、受け入れてきた表現や記号が“実は思考を縛っている”ことに気づくことが鍵となります。 人は往々にして「既に意味づけられたもの」を再検討することを怠ります。ここでは、「この見え方に囚われているのではないか?」という視点を獲得し、認識の脱構築によって表象の意味を相対化することが求められます。 この跳躍は、「当たり前をズラす勇気」であり、深い問いとしては「これは、本当にこう見えているのか?」「この見方しかないのか?」という意識的な問いが出発点となります。

[3] 対応する拡張推論メタ方法論

 ① 存在論的ずらし(Ontological Shift)

  • このメタ方法論では、「存在していると信じていたもの」のカテゴリー自体を揺るがすことが行われます。 表象にとらわれた知覚や記号の意味を、“本質的なもの”ではなく“構成されたもの”とみなし、そこに別の存在の可能性を立ち上げます。 たとえば、椅子を「座るためのもの」としてしか捉えていなかったところから、「空間における身体との関係性を制御するための装置」として再定義するような、存在カテゴリの再配置が行われます。
  • 適用例:
    • 例1:交通信号の「赤」を単なる「止まれ」ではなく、「社会的安全の象徴」「同調行動の強制装置」として捉え直す ⇒ 表象が示す意味を文化的・制度的構成物として捉え直す。
    • 例2:会議での「沈黙」は消極性と見なされていたが、それを「熟考の時間」「共鳴の兆し」として意味転換

深度2 機能的意味(手段-目的の文脈)

[1] 意味の次元 「目的合理性の解体と再構成(Deconstructing Functional Logic)」

  • 深度2では、「何のためにそれを行うのか」「どうすれば目的が達成されるか」という手段‐目的の枠組み=機能的意味の次元が中心になります。 私たちは多くの判断を、機能性や効率性、因果的連関によって意味づけていますが、それはしばしば無意識の前提に支配されており、創造性を抑制します。 この次元では、「目的を達成するための機能」という思考の束縛そのものを相対化し、“手段や目的に囚われない自由な構造の認識”へと移行していくことが問われます。

[2] ステージゲートで要請される跳躍 「機能の呪縛からの逸脱(Escaping the Functionalist Trap)」

  • この跳躍では、「それはそう“使うべき”」「“そのため”に存在している」という機能的合理性の絶対視を脱構築する必要があります。 「役に立つかどうか」「目的に適っているか」という判断軸が、思考の範囲を限定しているため、そこから離れて、逸脱・ズレ・揺らぎを受け容れる創発性が求められます。 問いとしては、「この前提(目的・手段)は本当に必要か?」「別の仕組みでも成立するのではないか?」という反実仮想的・逸脱容認的な発想が鍵となります。

[3] 対応する拡張推論メタ方法論

 ②捨象と抽象(Abstraction by Elimination)

  • このメタ方法論では、「意味を規定していた要素をあえて一つずつ捨てていく(捨象)」ことで、構造そのものを抽象的に再構成する力を養います。 つまり、「AのためのB」という因果的構造をいったん崩し、「Aがなかったら?」「Bだけなら?」「Bが別の目的に使えるなら?」といった問いにより、機能から自由な発想空間=創発性の余地を生み出します。 これはデザイン思考やシステム思考の発想にも通じる、機能を要素に分解し、再構成する抽象力のトレーニングです。
  • 適用例:
    • 例1:「ハサミ」を“切る道具”と捉えず、2枚の刃が交差する構造を“力の集中と転換”という機構として捉える。 ⇒ “切る”という目的を捨て、「2枚の回転要素によるエネルギー集中装置」として再構成
    • 例2: 「プレゼンテーション」を“情報を伝える手段”と見なさず、“注意を喚起し場を支配する儀式”と捉える。 ⇒ “伝達”の目的を捨て、身体性・時間性・演出性などを再解釈して新たな場づくりの要素に転化

深度3 関係的意味(関係性や相互作用の意味)

[1] 意味の次元 「関係性の中で意味が立ち上がる(Meaning as Relational Emergence)」

  • 深度3では、意味は個物の属性ではなく「関係性」や「相互作用」から立ち上がるという次元が重視されます。 例えば「先生」という役割は、生徒との関係性の中で初めて意味を持ちますし、「敵」や「仲間」といった存在も文脈や立場の違いに応じて可変的です。 このレベルでは、固定された意味を保持する“実体”という幻想を脱し、意味を“関係の網の目”の中に見る視点が求められます。 意味とは、常に相対的で動的な配置関係の中に生成する――この発想こそが、深度3の核です。

[2] ステージゲートで要請される跳躍 「境界の相対化と動的再編(Reframing Boundaries Dynamically)」

  • 深度3の跳躍では、「自他」「主体と客体」「組織と環境」「問題と非問題」などの境界設定の絶対性を問い直し、境界線そのものを再編可能な構造として捉え直す必要があります。 固定された役割関係、思考の枠組み、制度的枠などを一度「仮の構成物」として懐疑的に解体し、より動的で応答的な関係の編成へと跳躍します。 問いとしては、「この構造をどう組み替えれば、新しい意味や関係が生まれるか?」という再構成的問い直しになります。

[3] 対応する拡張推論メタ方法論

 ③ 懐疑と再設計(Epistemic Skepticism & Redesign)

  • このメタ方法論では、まず既存の関係構造や前提(制度・役割・視点・ラベリング)に対して認識論的懐疑(epistemic skepticism)を向け、それを仮構とみなして解体します。 その上で、全く異なる文脈や関係性の再配置によって、意味や機能、役割を新たにデザインし直す=再設計(redesign)という跳躍的発想が行われます。 この方法は、「今見えているものの構造そのものを問う」ため、組織変革、サービス設計、社会制度の革新において非常に有効です。
  • 適用例:
    • 例1:「病院」は“治療する場所”という前提をいったん疑い、「健康を“共に創る”場所」として地域との関係構造から再設計する。 ⇒ 通院型から、コミュニティケアやウェルビーイングセンターへの再編成。
    • 例2: 「上司‐部下」の関係を、指示‐命令の構造と見なすのではなく、“学習と気づきの循環関係”として再定義する。 ⇒ 上司は「教える人」ではなく「問いを立てる人」として再設計され、対話の触媒になる。

深度4 構造的意味(制度や価値連関)

[1] 意味の次元 「制度の背後にある構造的意味(Structural Meaning behind Norms)」

  •  深度4では、意味は個別の事象や関係性を超えて、制度的枠組みや文化的コード、価値連関のネットワークの中に編み込まれた「構造的な文脈」によって規定されているとみなします。 たとえば「結婚」や「職業」「教育」といった社会制度には、個人の選択を超えた歴史的・文化的背景、正統性、社会的期待が内在しており、意味はこのような“背景構造との結びつき”として生起します。 この層においては、「見えざる意味の連関網(invisible web of meanings)」を問い直す視座が必要になります。

[2] ステージゲートで要請される跳躍 「制度的予定調和への懐疑と越境(Interrogating and Crossing Institutional Boundaries)」

  • この深度での跳躍とは、制度的秩序や文化的慣習、組織内の不文律といった“暗黙の予定調和”を相対化し、それらの枠組みを越えて新たな連関の可能性を構想する行為です。 例として、「労働=時間提供」という制度的合意を疑い、「貢献=価値創出」という視点へと移行することが挙げられます。 この跳躍は、内在的視点だけでなく、他領域・異文化・異制度への越境を伴うことで、新たな意味の“連結”を可能にします。

[3] 対応する拡張推論メタ方法論

 ④ 遡行と共鳴(Retroactive Resonance) 未来の構想が過去の意味を再組織する(Rewriting the Past from the Future)

  • 意味は直線的に与えられるものではなく、未来の構想や理想が遡行的に過去を“読み替え”ることによって新たに形成されるという構造を扱います。 これにより、今まで「意味がなかった」とされていた行為や制度的要素が、新たな位置づけを得て“別の意味”を帯び始めます。これは「歴史の再物語化」あるいは「価値の再配列」として作用します。
  • 適用例:
    • 例1:戦後の焼け野原を「敗戦と絶望」ではなく、「創造と再生の起点」として語り直す地域開発構想。 ⇒ 絶望の過去を、再生の象徴へと読み替えるナラティブ設計。
    • 例2:企業の失敗プロジェクトを、「間違い」ではなく「制度変革の起爆剤」と位置づけ直す。 ⇒ “失敗”に新たな意味を与え、未来の制度革新の文脈と共鳴させる。

 ⑤ 越境と連結(Transgression & Bridging) 断絶した制度や意味領域を架橋する(Linking Segmented Meaning Regimes)

  • 既存の制度的・文化的な領域がそれぞれ閉じた意味体系を形成しているとき、それらの“間”を架橋する行為(bridging)や、あえて“越境”して異なる意味論を導入する試み(transgression)によって、新しい文脈が生成されます。 これは異業種連携、越境学習、制度間連動型サービスデザインなどの発想に通じ、「意味の断絶に橋を架ける」という思考力が要請されます。
  • 適用例:
    • 例1:教育と福祉という異制度領域を統合し、「子どもを育む“地域の共育圏”」として構想する。 ⇒ 制度の境界線を越えて、新たな意味構造を創出する。
    • 例2:高齢者介護とアート活動を接続し、“生の表現”としてのケアをデザインする。 ⇒ 文化的意味と医療的制度を架橋し、新たな価値連関を創出する。

深度5 存在論的意味(生の目的・希少性の意味)

[1] 意味の次元 「存在の問い直し(What is the purpose of being?)」

  • 「深度5」では、意味は単なる現象の解釈や機能の理解を超え、自己の存在の根拠や生きる目的そのものと不可分に結びつきます。ここで扱われるのは「なぜ自分はこの世界にいるのか」「この経験は自分の存在をどう変えるのか」といった、根源的な問いです。意味とは自己と世界の相互貫通によって生成されるものであり、それは時間や文脈を超えて希少性ある意味として生きられる必要があります。

[2] ステージゲートで要請される跳躍 「自己変容への共鳴(Transformative Resonance)」

  • この段階での跳躍とは、「自己を対象として意味を理解する」ことから、「意味が自己を変容させるものとして作用する」次元への到達です。既存の価値観や経験則に基づいて自分を解釈するのではなく、自分が変わること自体を意味として受け入れることが求められます。つまり、意味は内在化されるだけでなく、自己の核にまで届く「内面化」というプロセスによって、新しい自己が生成されるのです。

[3] 対応する拡張推論メタ方法論

 ⑥ 認知の省察(Metacognitive Reflection)  認知の再帰的再構築

  • 自らの思考や認知そのものを客体化し、それを省察するメタレベルの知的営みです。ここでは「自分がなぜそう考えるのか」「その枠組みはどこから来たのか」など、自分の認知の前提構造自体に気づき、それを問い直すプロセスが発動します。
  • 適用例:
    • 例1:ある企業リーダーが「成果主義が正しい」と信じていたが、「成果とは何か」を問い直すことで、チームの幸福や自律性に重きを置いた新たな経営観へと転じた。
    • 例2:教育者が「教えるとは知識を与えること」という前提を再考し、「教えるとは共に問うこと」という視座にシフトすることで、自らの教育スタイルが劇的に変容した。

 ⑦ 根源的内在化(Radical Internalization)  生の経験を自己の意味構造に統合する

  • 思考や感情を超えて、経験の本質を「自分の存在そのもの」に刻み込む行為。この内在化は単なる知識化や納得を超え、人格的変容と表裏一体です。意味は外在的な説明ではなく、存在のコアに融合されていく必要があります。
  • 適用例:
    • 例1:震災を経験した被災者が、その経験を「悲劇」や「試練」としてではなく、「命の意味とつながりを知る出来事」として、自分の存在観に統合した。
    • 例2:難病を患った青年が、「なぜ自分が?」という問いを超え、「この身体を通してしか見えない世界がある」と悟ったとき、その存在の意味自体が更新された。

 

サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一

  

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【参考文献】

  1. マイケル・ポランニー 著、高橋勇夫 訳、「暗黙知の次元 」(ちくま学芸文庫 ホ 10-1)、筑摩書房、2003.12.10 (原著 1966)

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