#170 ポスト資本主義(脱経済格差)の社会になる

 資本集約型の近代化はポストモダン化によりサービス中心の経済となり、金融資本主義を生み出してきた。しかし、経済格差を極度に進展させてきたこれまでの資本主義は社会に様々な不安をまき散らしている。こうした状況の下、次の世代における資本主義、すなわち、ポスト資本主義の社会はどの様なものになるのだろうか。

 ポスト・ポストモダンの時代となり社会に多元化が進んでいく。新興国のみならず人口の多い新興国の人口ピラミッドが早晩棺型に移行していく中で、社会保障費の負担増などによる財政破綻への不安などから、次第に、経済に変調をきたしていく。現在、開発が進んでいる高層建築物も老朽化し、街の情景は荒んでいく。ロボットや人工知能技術の進展により、新たなイノベーションが巻き興り産業構造も変化し、雇用構造(形態や職種)も大きく様変わりする。

 イノベーションは経済を成長させるばかりでなく、社会システムや社会的風土も変化させ発展させていく。逆に、未来社会においてどの様な価値を創造すれば、多くの社会問題を解決し経済を成長させていくことができるかを考えていくことが必要である。ネットワークは多元化した社会の殆どのモノとヒトをつないでいく。これによって、社会の発展の仕方、個人の思考や意識、行動の仕方も進化していく。ロボットはサービスの現場、医療介護の現場、いわゆる3K業務といった労働集約的な業務を変化させ、人工知能は定型的なオフィス業務を担い、マネジメントに関わる業務や行政に関わる業務もRPA化が進んでいく。ポスト資本主義の社会は、先端技術に関わる知の創造を競う社会である。

 一方、社会に渦巻く様々な問題、例えば、財政問題(国や地方の財政破綻、社会保障費の負担増大)、地球環境問題(資源開発や廃棄物による自然環境の破壊、地球温暖化、生物多様性の危機)、人権問題(過剰労働や劣悪な労働環境)、貧困問題、人口問題(人口の都市への集中と地方の過疎化、都市や地方における限界集落化、空き家)、高齢化社会問題(介護、独居孤独死)等は、複雑に絡み合いながら多岐にわたり深刻化していく。社会問題を引き起こしてきた発想、産業構造、社会構造そのままでは、その問題を本質的に解決することはできない。高度経済成長の社会では、顧客を創造し収益を争奪していけば良いという競争原理がその根底にあったが、社会問題への意識が高まっているポスト資本主義の社会では、利潤を追求すれば良いという経済原理は通用せず、事業を通して社会的課題を解決しているか否かが消費者の最大の関心事となる。事業を通した社会的課題解決の手法が、企業の社会的な存在価値(コーポレートブランド)を高め、消費者の新たな購買動機を掘り起こしていく。そして、利益を出しているかだけでなく、未来社会に向けた価値を構想する能力の高い企業であるかどうか、その高い能力を生かし事業を通した社会的課題解決の手法を創造しうる組織であるかどうかに投資家も関心を寄せ、ESG投資を強く意識する様になっていく。ポスト資本主義の社会は、社会課題解決競争に勝ち残っていく知の創造を競う社会である。

 尚、社会的課題解決を論って儲けさえすれば良いという事業者も出てくるに違いない。そうした偽社会的課題解決事業を見抜いていく目も社会に備わっていかなければならない。偽社会的課題解決事業の理念が崇高であっても、収益の実態から偽社会的課題解決事業を監視する会計基準の整備、実際の受益者が申し立てのできる受益者保護の制度、レポートやホームページにより透明性を担保する仕組みが必要である。ポスト資本主義の社会に向けて、政府や行政による統治と企業におけるコンプライアンスのあり様を学習し、深化させていかなければならない。

 これまでの資本主義経済は利己的な儲けに資本が集中する社会であったが、ポスト資本主義では先端技術に関わる知、社会的課題解決競争に勝ち残る事業を創造していく知に資本が集中していく社会である。社会問題を引き起こしてきた発想を転換し、ポスト資本主義経済の社会の発展に向けて、社会としも学習し、新たな産業構造、社会構造を構築していかなければならない。

サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一

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