コラム「345 戦略眼と現実解 創造的思考の方法 社会の中で多様化し深化する「意味」の創造者となる」において、個々人の中で芽生えた「意味」は社会との相互のやりとりによって「社会的意味」へと昇華し、それがまた個々人の中での新たな「意味」の芽生えとして循環していくと記しました。この循環は単なるサイクルではなく、多様化し深化した社会的意味を土台にスパイラルアップしていく循環です。
個々人と社会との相互のやりとりの中で個々人の中で「意味」が芽生え、芽生えた新しい「意味」は社会に溶け込み「社会的意味」へと昇華し、昇華した「社会的意味」は社会の発展を導き、社会の発展によって「社会的意味」はさらに多様化し深化していく。個々人の中に新たな「意味」を生み出していくという循環があるということです。
1.「意味の経済」とは
個人化した多様性を包摂する社会では、市場を画一化して事業効率を高めるという発想は通用しません。「規模の経済」は創造的破壊され、個々人と社会との相互のやりとりの中で多様化し深化する「意味の経済」に移行していくことになるでしょう。個々の顧客との相互のやりとりの中で「その人にとって共感できる意味」を創造し提供することが新たな価値構造となるのです。
- 商品の利便性で選ばれる「モノの経済」から、共感できる意味が価値として選ばれる「意味の経済」へ
- 安さで選ばれる「規模の経済」から、共感できる意味があるから高価でも選ばれる「意味の経済」へ
2.「意味の経済」はどのように可能であるのか
「意味の経済」は、誰か一人が声高に叫んでも実現するものではありません。個々人と社会の間での相互のやりとりがあり、それが周りに波及し拡がっていくことで起こる事象です。もちろん、オピニオンリーダー、インフルエンサー、メディアもその役割を担いますが、事物とは異なり、「意味」は、人々の間に「これこそが本元的に大切だ」という意識を巻き起こし、共鳴の大きなうねりとなっていかなければ、拡散し浸透していくことはありません。
2.1. 「意味」が拡散し浸透していくメカニズム
「意味」が拡散し浸透していく中身は、「これこそが本元的に大切だ」(生き甲斐、やり甲斐、働き甲斐を感じる意味)と意識される意味であり、人と社会の相互のやりとりが媒体となって伝わっていきます。
下図は「意味」が拡散し浸透していくメカニズムをモデル化して描いたものです。この構造は、社会が動いてしまう前の“静かな配置”であり、 「どこから入ってもいい」構図になっています。入口が固定されていないということは「業種に依存しない」構造であるということです。

2.1.1. 「本元的意味」の抽出
上図では、「本元的意味」というものを8つのノードとして抽出しています。少し違和感があるかも知れませんが、全て、「主体であるものが生きること/生かされること」(能動即受動)の対応で整理されています。
- 生きる/生かされる → 存在して居ることの本元的意味 (基底・すべての前提)
- 暮らす/暮らされる → 生活世界(ライフスタイル)の本元的意味 (時間・空間・反復)
- 考える/考えられる → 知の本元的意味 (問い・理解・懐疑)
- 共し協する(共に在る・協する)/共され協される → 関係の本元的意味 (即非・相互生成)
- 伝える/伝えられる(伝わる) → 相互のやりとりの本元的意味 (コミュニケーション)
- 表す(表現する)/表現される → 創造・顕現の本元的意味 (立ち現れる)
- 動く/動かされる → 移動・変化の本元的意味 (身体性・環境との関係)
- 育ち学ぶ/育まれ学ばれる → 文化・知識の本元的意味 (継承と変容)
2.1.2. 「本元的意味」の抽出原理
これら「本元的意味」は、以下の条件(本元的であるための特定するべき原理、ノードの切り出しの原理)に基づいて選出しています。ここで重要なことは、外在する「モノ」で意味を考えると、即、経済観念での価値で考えることになってしまうことです。「本元的意味」を考える思考を、事物の価値ではなく、その意味することの価値に転回しなければなりません。
- 第一原理:生きることを分解する(機能ではなく営み)
- 産業・職能・制度に回収されない営みの“相”として分解する。
- 第二原理:内在すること(主体側)
- 外在物(技術・プロダクト・制度)は「対象」にはなるが「主体」ではない。
- 外在するものはそれ自体が産業と結びついてしまう。
- 切り出しは 主体の内在的営み から始める。
- 第三原理:そこに還元されること(本元への還元)
- 「それは結局、何に還元されるのか?」で、営みを本元的意味に還元できるものだけを採る。
- 第四原理:即非の構造(する/されるの対応)
- 「する(能動)」と「される(受動)」を対立として分断せず、同じ営みの二相として保持する(=再起動可能性を内蔵する)。
- 第五原理:独立変数であること(ただし“融合して循環”できる)
- 1.〜8. は“従属”ではなく、それぞれが独立に立ち上がる起点となる。
- 中心はない。(ビジネスエコシステムのコア事業のような構造ではない)
- 実際の社会では「場−投影−道具」を介して 「つながり↔関係↔融合 」し、循環を織る。
3.「本元的意味」間のダイナミックな循環構造(作用素が融合して循環する構造)
各「本元的意味」には参照関係があるように読み取れるものもありますが、この構造では直接の相互参照関係は設けず、『各「本元的意味」は「場-投射-道具」の軸を介して「つながり↔関係↔融合」して相互に関係し合っている』という循環構造として描いています。
3.1. 「場-投射-道具」の場
『場-投影-道具』は、「本元的意味」が社会化される限り必ず現れるものです。また、この3つは、①業種に依存しない、②技術更新に耐える、③人間中心、④クロスインダストリを自然に内包する、という性質を持っています。しかも、「場」がなければ思考は生まれず、「投影」がなければ関係にならず、「道具」がなければ循環が続かない、という自己生成循環の最小構成要素になっています。
3.1.1. 「場(Place / Field)」
意味生成は必ずどこかで起きます。例え、内面であっても、それは「内的な場」なのです。
- 思考が立ち上がる場所
- 沈思黙考/対話/協働が起きる環境
- 例:オフィス、教室、工房、地域空間、食卓
3.1.2. 「投影(Projection)」
「投影」は「意味」が関係化されるプロセスです。「意味」は外化されなければ関係になりません。「意味」は言語・身体・表現・行為すべてに投影されます。
- 思考や意味が外化され、共有可能になる媒体
- 書く、刷る、映す、語る、記録する
- 例:印刷、映像、言語、記号、物語、文化表現
3.1.3 「道具(Instrument)」
継続・拡張・再利用には媒介が必要です。「技術」「作法」「慣習」も道具です。
- 思考や行為を増幅・変形・持続させるもの
- PC、AI、事務機器、調理器具、医療機器
3.2. 「意味の経済」 ダイナミック構造(循環の織り方)の作用素
各ノード(本元的意味)は「場-投射-道具」の場に写像されます。そしてこの写像が行われる連結の作用素は全部「本元的意味への問い」なのです。
【作用素(問い)の3型】
- Q1|還元問い:それは結局、何に還元される?(第三原理を駆動)
- Q2|即非問い:それは「する/される」のどちらで断線している?(第四原理を駆動)
- Q3|生成問い:次の自然な行為が生まれる条件は何?(自己生成を起動)
この3つが融合して、ノード間の「つながり↔関係↔融合」をその都度立ち上げます。
3.3. 「意味の経済」に立ち現れるソーシャル・エコシステム
ソーシャル・エコシステムは、業界や制度ではなく、人間の基本的な営みにおいて意味が生成・循環する「型」として「意味の経済」の場に立ち現れます。その「型」では、各「本元的意味」が「場-投射-道具」の軸を介して「つながり↔関係↔融合」して相互に関係し合って、マイクロイノベーションを自己生成し続けます。
4.企業経営として見た時の「意味の経済 意味の拡散・浸透メカニズム」
上図「意味の経済 意味の拡散・浸透メカニズム」の企業経営の視点から捉えた位置づけを以下に整理します。
- ソーシャル・エコシステムが「意味の経済」の場に立ち現れて、無数のマイクロイノベーションを創発させ、「つながり↔関係↔融合」によって社会変革のイノベーションにつながっていくことを想定して(目指して)いる
- 大企業であっても、小企業であっても、スタートアップで立ち上げたばかりの企業であっても、「意味」を扱っているので企業規模には依存しない
- クロスインダストリーで構築するソーシャル・エコシステムを想定し、どの企業にもあてはまるものである(特定の業種や業界、特定の企業を想定したものではない)
- 商品に関わるアイデアを抽出してビッグイノベーションとなる新事業開発をしようというものではない
この「意味の経済 意味の拡散・浸透メカニズム」は、社会が自己生成によって動いてしまう「ダイナミックな構造」であり、「どの本元的意味からでも入ってもいい」構図になっています。入口が固定されていないということは「業種に依存しない」構造です。
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一

