#327 戦略眼と現実解 「創造的思考の思考法に対する暗黙知」を考える

 「組織的知識創造」の技能・技術こそが日本企業成功要因と考えられてきました。これらの前提にあるのは「形式知化できる暗黙知」の存在です。そして「外から内へ、内から外へという活動こそが、日本企業の連続的イノベーションの原動力である。この連続的イノベーションが、日本企業の競争優位につながる」、すなわち、「SECIモデル」と呼ばれるスパイラルによって生み出されると考えられてきました。(野中,竹内 1996 #1 序論より引用)

 しかし、#326 のコラム「何故、今の日本企業に内発的な変革が起きないのか 日本人の暗黙知を考える」でも記したように、今日の日本経済の停滞の要因の一つがイノベーションの不足であると考えられます。もし、連続的イノベーションが生み出されてこなかったのであれば、それは何故なのでしょうか?

1.マイケル・ポランニーの暗黙知に対する考え方

マイケル・ポランニーは「暗黙知の次元」において以下のように記しています。

  1. 私たちは言葉にできるより多くのことを知ることができる(ポランニー 1966 #2 p.18)
  2. 暗黙的認識をことごとく排除して、すべての知識を形式化しようとしても、そんな試みは自滅するしかないことを、私は証明できると思う(ポランニー 1966 #2 p.44)

 この書籍が書かれた年代から見ても、当然のことながら、「SECIモデル」を否定している訳ではありません。特に、2番目の主張は西欧人の形式知への志向を批判したものと推察することできます。しかし、1番目の主張は「組織的知識創造」の中にも限界があることを示唆しています。

1.1. 問題を考察するということ

 マイケル・ポランニーは、問題を考察することについて、次のように記しています。

  • 問題を考察するとは、(中略)個々の諸要素に一貫性が存在することを、暗に認識することなのだ。この暗示が真実であるとき、問題もまた妥当なものになる。(ポランニー 1966 #2 p.46)
  • 問題は暗黙の内にしか認識されない。したがって、その認識は、暗黙知の妥当性を受け入れることによってしか、妥当だと認められない(ポランニー 1966#2 p.143)
  • 人間の発見的緊張は意図的なもののように思われる。つまりそれは、すでに定まっていると信じられている解決策を、懸命になって把握しようとする反応なのである。それは冒険的であるが、つねに志向的な追求によって制御されている、選択なのである。こうした選択は、原因が存在せず、なおかつ、選択をほぼ不確定なままに放置する場によって導かれる(ポランニー 1966 #2 p.146)
  • 発見は、 (1)発見を触発して導く場は、より安定した構造の場ではなく、「問題の場」である。 (2)発見が起こるのは、自然発生的ではなく、ある隠れた潜在的可能性を現実化しようと「努力」するからである。 (3)発見を触発する、原因のない行為は、たいてい、そうした潜在的可能性を発見しようとする「想像上の衝迫」である(ポランニー 1966 #2 p.147)

 この「問題」についての考察を「イノベーション」に置き換えると、この文章は「創造的思考の思考法、および、その思考法に対する暗黙知の位置づけ」について記したものとなります。そして、イノベーションに向けて「冒険的であるが、つねに志向的な追求によって制御されている、選択」が必要だと言われているようにも思えます。

サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一

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【参考文献】

  1. 野中郁次郎 ,竹内弘高 著、梅本勝博 訳、「知識創造企業」、東洋経済新報社、1996.3.1、英語原著 1995.
  2. マイケル・ポランニー 著、高橋勇夫 訳、「暗黙知の次元 」(ちくま学芸文庫 ホ 10-1)、筑摩書房、2003.12.10 (原著 1966)

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