#321 戦略眼と現実解 戦略に“意味”を与える:Semantic Meaning Engine(SME)辞書

社会やビジネスの文脈では、同じ言葉でも立場や状況によって意味が変わります。そのため、ビジネスの意思決定には「意味」を読み解く力が求められるのです。SME辞書は、こうした複雑な状況の中で経営者や戦略担当者が「意味」を見出し、行動の選択肢を設計するための思考プラットフォームです。

Semantic Meaning Engine(SME)辞書の設計思想は 【サステナビリティ時代の戦略眼と現実解 メルマガ Vol.12 2025年5月13日号】「意味ネットワークで創る未来社会へのビジネス戦略」 自ら意味づけた意味によって未来を切り拓く のページをご参照ください。

1.Semantic Meaning Engine(SME)辞書とは

 Semantic Meaning Engine(SME)辞書は、単なる「単語の寄せ集め」ではありません。①社会を見つめる多元的まなざし(Perspective)と、②行動を引き起こす意志(メタ機能)を接続し、③自らの意志がどこにあり、どこに向うべきかという方向性を指し示す 「意味のネットワーク」です。

2.SME辞書のカラム構成

 SME辞書の主要なカラムを以下に示します。SME辞書に登録されている語彙には、視点論点(俯瞰コード)、Semantic Domain コード、発展型コード、機能コードなどが、1つの語彙に複数個割り付けられています。

  1. 語彙、説明(定義ではなく、社会的価値創造の視点から捉えた解説文)、類型、類義語:生成AIが事象を読み取るための学習データの単位「語の集まり」
  2. 視点論点(Perspective コード):語彙に含まれる社会を捉えるまなざし(マーケティング視点、消費者の価値観、社会環境の視点、倫理、未来志向などの多元的見方)
  3. 俯瞰した社会の在り様(俯瞰コード):社会を俯瞰して見た時に目に映る光景(人口減少社会、経済衰退、地域社会衰退など)
  4. Semantic Domain (Semantic Domain コード):語彙に対する意味づけのコンテクスト(社会的包摂、消費者価値、技術適応、文化発展、ウェルビーイングなど)
  5. 意味ラベル(発展型コード):語彙に対する多面的に捉えた未来への方向性(アイデンティティ社会化、スマート社会化、環境配慮経済社会化など)
  6. メタ機能(機能コード):潜在ニーズの根元にある こうしたい/こうしなければならない という心の奥底で観念的に描かれる機能(経済的価値の追求、科学技術発展、文化発展、地域発展、組織変革など)
  7. アナロジー(コード化なし):具体的に思い浮かべることのできる事例など

私たちが社会を俯瞰して見た時、自分にとっても他者にとっても、様々な不利益や不条理な光景が目に浮かんできます。それは社会の様々な問題を一種のデフォルメして捉えた現象です。こうした不利益や不条理な光景を無くしたいという心の奥底にある感情が意味ラベルであり、解決するにはどうしたらよいのかというのがメタ機能(潜在ニーズの背景のある機能要件のメタファー)です。そして、すぐに脳裏は具体的な政策や成功事例がアナロジーによって浮かんできます。

3. SME辞書の規模

 (参考)顧客インサイトと消費者インサイトのメタモデル(182パターンのメタレベルの記述)に用いた語彙を中心に抽出した197の語彙、および、それら語彙に関わる類型概念、類義語彙として抽出した約4,000語彙の辞書となっています。

4.SME辞書の概観(イメージ)

SME辞書のイメージを以下に示します。

5.SME辞書の倫理基準

 存在する普遍性として「人としての心の奥底にある命の尊さに対する思い」があります。しかし、今日の実社会では、権力欲、既得権益、利害関係などにより世界は分断され、力による現状変更、武力の応酬、戦争すら肯定されています。 SME辞書では、これらの思想には明確に反対して設計しています

  • 語彙、類型、類義語の抽出元となる(参考)顧客インサイトと消費者インサイトのメタモデル(182パターンのメタレベルの記述) における顧客インサイトのうち『社会的公正・倫理観』では、「真のソーシャル・コヒージョンを志向する社会では、消費や行動における人権への配慮が不可欠となる。互いを尊重し合う関係性が、未来社会の発展に資する倫理的基盤を形成する」と記述しています。
  • 視点論点に『包摂性と多様性の視点』を設け、「人権の尊重・DEI・平等な機会・社会的包摂など」と記述しています。
  • 意味ラベルに『非暴力平和解決社会化』を設け、「「力による現状変更」の脅威が顕在化すると世界中で分断が進み軍備拡張の機運が高まり、軍拡競争こそが平和維持の手段となってしまう。人権に視座を高めた平和主義で国際社会をリードすることで実現しうる本来の平和を諦めてはならない」と記述しています。
  • メタ機能に『平和社会の構築』を設け、「絶対悪の排除(反侵略・反戦・非暴力、反ジェノサイド)、 平和に基づく判断(陰謀論の排除、偽情報の排除、戦争犯罪に対する寛容さの排除)、 平和主義の行動規範(国際パートナーシップ、人道支援活動への参画|社会的安定の促進(社会的分断の抑制)」と記述しています。

  

サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一

【参考文献】

  1. ジョセフ S.ナイ、山岡洋一 訳、『ソフト・パワー: 21世紀国際政治を制する見えざる力』、日経BPマーケティング、2004.9.1

【補足 各種コード体系内訳】

1.視点論点(Perspective コード)

  • p1:マーケットターゲティング視点(年齢、性別、職業、所得層、ライフスタイルなど),p2:消費者の価値観の視点(品質・価格・利便性・倫理),p3:購買行動の視点(購入チャネル・意思決定プロセス・頻度・ブランド選好など),p4:社会環境の影響の視点(経済・文化・テクノロジー・政策・制度など),p5:地域コミュニティの視点(地域性・地域課題・共創・地方創生など)

2.俯瞰した社会の在り様(俯瞰コード)

  • g1:人口減少社会(経済規模の縮小 | 人手不足化 | 社会保障制度の破綻 | 地域行政の破綻(財政破綻、サービス低下) | 過剰化する箱もの | 後継者不足による廃業増加 | 若者市場の縮小 | 高齢者市場の拡大 | 少子化 | 晩婚化する若者世代 | 子育ての余裕のない家計 | 育児ができない暮らし方 | 相続先のない資産の増加 | 過剰な相続税負担 | 子育てしづらい社会 | 母子、父子家庭の子育て不安 | 共稼ぎ世帯の子育て(待機児童) | 高額化し就職後も負担となる教育費 | 育児放棄、幼児虐待 | 超高齢社会 | 人口オーナス社会化 | 地域社会の高齢化 | 老々介護 | 高齢者の無縁化 | 孤独死 | )など

3.Semantic Domain (Semantic Domain コード)

  • d1:社会的包摂(多様性・包摂・人権・DEIに関連する領域。すべての人が社会的に尊重され、関与できる社会),d2:人的資本(働く人の成長、スキル、キャリア形成、働きがいなどを含む人材価値に関する領域),d3:消費者価値(製品やサービスに対して消費者が感じる利便性、機能性、共感価値、価格対価などの評価),d4:環境倫理(持続可能な社会の実現、環境保護、グリーン経済、エシカル消費に関する価値観)など

4.意味ラベル(発展コード)

  • s1:既成の枠組みが崩壊した社会の再生(”「既成の枠組みが崩壊した社会」は、人々がこれまで社会の中で長い年月をかけて作り上げてきた既成の考え方が通用しない、新たな事態への対処方法も見出されていない社会のことである | 先進国では人口減少化し経済成長が停滞している反面、グローバルサウスの国々では経済成長が著しいが人口増大が問題化している。双方とも経済格差が拡大し貧困に喘ぐ経済難民や不法移民が増大し移民を排斥する民族主義と対立が激化し自国主義が台頭してきている)など

5.メタ機能(機能コード)

  • f1:経済的価値(イノベーションの創出 | ビジネスモデルの創造 | 市場の創造 | 需要の創造 | 経済格差の解消 | 雇用機会の創出 | 資金調達(投資呼び込み) | 持続可能性の経済への対応(所有しない経済|3R|循環消費|エシカル消費|グリーン消費) | ),f2:科学技術発展(技術経営 | 技術革新 | 技術の平和利用(持続可能な社会発展のための技術開発|倫理に配慮した技術開発|軍事利用できないAI技術の開発) | 知的財産権の保護(オープンイノベーション|技術への適正なアクセス) | )など

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