自ら創造すべき未来社会における価値を思考しダイナミックに行動する組織の形成

 私たちの周りには、固定観念がたくさんあり、思考すべき範囲に自ら枠をはめていることがあまりにも多く、それがダイナミックに行動する組織の形成を邪魔します。経営環境が変化していく中で、こうした固定観念に囚われていることが本当に良いことなのかどうかが問われています。
 ダイナミックに行動する組織を形成していくための思考を阻害する問題に、より表層にある全ての問題を引き起こす根本的要因があります。それは、人の心の内面の奥底に隠され、人の行動を潜在意識の中から呪縛します。当社では、思考が固定観念に囚われる問題についての本質的な解決が必要であると考えています。
 思考の枠に起因する問題が、組織が抱える問題の最も深層にある理由は、より表層にある問題の根源に、固定観念による自らに課した制約が関わっているからです。そして、これこそが組織のダイナミズムを阻害する要因と考えられます。固定観念が心の奥底で人の行動を束縛し、思考すべき範囲に自ら枠をはめてしまいます。そして、自らの思考に枠をはめることで、より表層の問題を生み出し、その解決をも阻害してしまいます。自らの価値観が邪魔をして、前提となる情報や知識にフィルターをかけて遮断し、あるいは、都合の良いように脚色して、然るべき思考がなされないようにブロックされることもあります。
 人の心の深層にあるこの問題の解決、すなわち、長年にわたり築き上げられてきた固定観念を解き崩し、無意識に自らに課している思考の枠を取り払うには、以下の4つの視点を起点として、発想を大きく転換していく必要があります。

(1) 自ら描く未来社会の価値のデザイン

 思考の、さらに奥深くには、自己実現をしたいという人間の本来の欲求が横たわっています。この感情を抜きにして「思考の枠」について考えることはできません。何故なら、人は、興味があることについてはより深く思考したいものですが、興味のないことについては認識すらしようとしないからです。
 一方、自己実現の欲求自体に「固定観念の枠」が隠されています。しかし、組織の中にいる多様な価値観のある人たちが、夫々に自分の描く未来社会の価値を実現しようと情熱を傾け、かつ、相互に意見を出しながら協創していくことで、より高い視座からより広い視野で、新たな視点での価値を生み出していくことに結びついていきます。そして、そうした相互作用が、自己実現の欲求に隠された「固定観念の枠」を打ち砕いていきます。

(2) No.1 を目指す志向

 「No.1 を目指す」というと荒唐無稽に思われるかも知れません。しかし、大志を抱くことで人の心は奮い立つものであり、誰にも負けないという強い意志と絶対に諦めないという確固たる決意が芽生えてくるものです。
 「No.1 を目指す志向」によって醸し出される意志は求心力となり人を呼び寄せ、みんなと一緒に団結し、自分も貢献したいという気持ちにもさせることができます。そして、多様な価値観を持った人たちが自己実現を図りたいという欲求を一つの方向にまとめて、組織の差別化された価値(競争優位性)を作り上げていくことこそが一体性(インクルージョン)の構築の原動力となります。
 「No.1」に挑戦することで、「今のままで本当に良いのか」「もっと改善しなければならないことがあるのではないか」という疑問も湧いてきます。「No.1 を目指す志向」は、プロとしての自覚を芽生えさせ、かつ、協働しつつもお互いにライバルとなって相互に刺激しながら、より高みを目指していこうという内発的動機づけにもつながっていきます。そこに参画する人たちはチームワークを意識し、成果を得られれば、共通の目的を共に達成した喜びと満足感を得ることができる様になります。この感情はかけがえのないものと意識され、外部からも称賛されることになります。

(3) ネットワークによるつながり

 「No.1 を目指す志向」は、人と人との間にある垣根を取り払います。そして、「No.1 になりたい」という強い意志が、世界中のどこかで良いアイデアや技術を持った人とのつながりを求めていきます。
 「No.1 だという専門家としての意識」が、人と交流しあうことへの恐怖感を振り払います。上には上がいるという自覚から、自分よりも先行して進んでいる人に興味を抱かせます。話しを聞きたいという思いから、自ら進んでつながりを作り始める様になります。6次のつながりやスモールワールドのごとく、自ら制約を作ったり、諦めたりしなければ、そうしたつながりは必ず実現するものです。
 旧来からある組織の形態としては、縦型組織、マトリクス型組織、プロジェクト型組織、タスクフォース等があげられますが、これらは全て、その内と外との境界が暗黙の了解として引かれてしまいます。ネットワークによるつながりは、これらの境界をいとも簡単に乗り越えていくことができます。

(4) 内発し自律行動していく組織の基盤

 No.1 を目指して、色々な人たちとのつながりを持ち始めると、人というのは、内発的に自ら考えて行動しはじめるものです。しかし、一人の人間が思考できる範囲には限界があります。これは、関心のない知識への理解が乏しい(専門外である)、思考力が乏しい、累積思考量が不足していて考えが及ばない、ものごとを我が身に置き換えて思考できないといったことから生じる限界です。そして、思考できる範囲が、結果として、思考の限界という見えざる枠となっていきます。
 こうした限界を乗り越えるためには、様々な価値観や専門知識を持った人たちが知恵を出し合って協働して考えるという発想の転換が必要になります。そしてそのためには、思考の共通基盤の下でネットワークでつながり、協働して考えうることが必要になり、そのための共通基盤も必要となります。
 組織で働く人たちが柔軟に協働しつながっていく仕組みには、以下に示す6つの項目「自ら考えて行動する共通基盤の必要事項」が備わっていなければならなりません。

(a) ビジョンへの共感
ここで言うビジョンとは、言葉で書き記された理念ではなく、「未来社会において存在価値のあるビジョン」である。「自ら考えて行動する」には、目的を一にしてどんな世界を描き、何をいつまでに実現するかという「ビジョン」を共有しておかなければならない。さもなければ、みんながバラバラの方向に進んでしまう。また、「ビジョン」は、理解するだけでなく、本当にそうなれば良い、そうありたいと心の奥底で共感しあえる象徴的なイメージがなければならない。

(b) 情報と分析の共有
事実を捉えて自ら考えて行動するための情報を探索し分析するための共通基盤である。データベースやネットワークインフラ、SNSやグループウェア等のICTによって実現される、単なる、IT基盤ではない。目標を達成するための施策を構想し、結果を検証してアクションを打つための基盤として機能していくためには、どこにあるどのデータからどんな情報を得るか(情報の定義や意味(メタデータ))、どんな指標を捉えるか、どんな手法で分析をするか、分析結果をどのように捉えるか、といったことが共有されなければならない。組織のダイナミズムの論点では、何よりも、指標値からどんなアクションを導き出していくかについて、状況に応じてダイナミックに思考していくための、情報探索、状況把握、施策の検証、多基準の中での意思決定の情報基盤として機能しなければならない。

(c) 知識の共有
自ら考えて行動するための共通基盤として、『情報』を「経営環境の変化を示すもの」とし、『知識』を「過去に経験したことを論理的に整理して蓄積したもの」と区別して定義する。例えば、経営環境の変化の捉え方、および、捉えた値から打つべき施策を導き出す定石(セオリー)等である。共有される知識は、成功事例や失敗事例の経験知だけでなく、また、組織にとっての意味を理解(解釈)する上で必要な辞書化された知識だけでもない。共有された知識を検索し、様々な文脈から辿っていくことによって知識と知識が結びつき、新たなひらめきを起こすことができて初めて有用な知識となる。こうした知識と知識の結びつきによって生み出されるひらめきは、無意識に築いていた思考の枠を打ち壊すきっかけとなる。

(d) 思考方法の共有
自ら考えて行動する際に認識しておくべき最も大事な点は、(ⅰ) 現実/事実/真実をどう捉えて、(ⅱ) 問題をどう認識し、(ⅲ) 問題をどう解決するかである。とは言え、現実/事実/真実のとらえ方、問題の認識の仕方は個々人で異なるものである。しかし、だからこそ、内発し自律行動していく組織の基盤として、思考方法を共有することが重要となる。組織の多様性(ダイバーシティ)を向上させていく一方で、個々に異なる考え方を一つにまとめて一体性(インクルージョン)を強めていくためには、思考方法を共有し相互に理解しあえる環境を創っていくことが必要である。

(e) 意味の共有
「未来社会において存在価値のあるビジョン」を共有することと同時に、ビジョンのそもそもの意味、その意味に照らして認識した問題の持つ意味を共有することは、一人ひとりが内発し自律行動していく組織においては最も重要な点である。先に記した「情報と分析の共有」「知識の共有」「思考方法の共有」は、この「意味の共有」には欠かせない共通基盤となる。とは言え、組織の中で意味を過度なほどに厳密に規定することは、むしろ、自由度を阻害するものであり、そうした努力(時間と労力)は無駄であるとも言える。多様な経験知を持った人たちに対して、事細かに意味を規定して、あるいは、高圧的に意味を押し付けるよりは、組織に埋め込まれた柔軟性のある知恵として、多義性を取り得るような意味にとどめて共有し、経営環境が変化したときに柔軟に対応できるようにしておいた方が良い。逆に、意味を厳格に定義してしまうと、経営環境が変化したときに、その意味を失い、組織の共通基盤はもろくも崩れ去ってしまうことにもなる。

(f) ダイアローグ
コミュニケーションは相互の意思疎通であるが、ダイアローグはオープンでフラットな関係をベースに、自らの心の中に思考の枠をはめず、また、相手に対しても思考の枠をはめないで、相手を受け容れて心と心がつながり合う対話である。だからこそ、ダイアローグを通して、様々な思考を相互に共有することができる。ダイアローグは、前提として、ビジョン、情報とその分析、知識、思考方法、意味が共有されていなければ成立し難い。これら共通基盤の下で実現されるダイアローグの文化が浸透している組織では、個々人の自己実現が連動して、No.1を目指す人たちが、ネットワークによってつながって、自ら考えて行動するようになる。一方、これら共通基盤が構築されていない組織では、常に、論争(ディベート)を通して切磋琢磨する文化となる。ひいては、意見の合うもの同士が集って派閥を作り、派閥の間で数字を巡る利権の争いと囲い込みの組織化が進んでいく。言うまでもなく、こうした思考の下で形成される派閥は、常に、内部闘争による崩壊の危機をはらんでおり、持続可能な競争優位性を生み出しうる組織とは言えない。

 

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