情報共有の真の問題点

 ところで、何故、日本ではパラダイム・シフトを起こして社会を変革させるようなイノベーションが起きないのでしょうか? また、何故、生産性が高まらないのでしょうか? その原因は様々に考えられていますが、例えば、下記の言葉でこうした現象を説明することができそうです。

  • 「イノベーションのジレンマ」という言葉があります。イノベーションの成功体験が邪魔して新しいことに取り組めず、時代の趨勢に対応できずに社会の発展から取り残されたりすることです。
  • 「カニバリゼーション」という言葉もあります。日本語では「共食い」と訳されますが、新規事業が既存事業の市場を食われるといった意味合いで用いられています。
  • 「両利きの経営」という言葉も浸透してきています。既存の事業を深掘りすることとイノベーションのネタを探索することの両方に取り組む経営という意味合いがありますが、日本企業はしばしば「ガラパゴス化」と言われるように機能追加や改善といった既存の事業を深掘りすることは得意でそこにばかり執着してしまうことが多いと考えられています。

1.情報共有の問題点の認知心理学的要因

 これらをさらに認知心理学の知見から深めて考えるなら、確証バイアス、あるいは、正常性バイアスや現状維持バイアスが日本人の心の奥に密かに働いているとも思えます。日本の経営を揶揄して「ゆでガエル現象」とも言われますが、確かに、何故、我が身に危機が迫っていても平然として一向に動かずにいられるのかと言えば、それはこうした心理が働いているとしか言いようがありません。

2.情報共有の問題点の深層

 しかし、それなら、日本人、日本の企業に限ったことではなく、世界のどの国でも同じことが起きると考えられます。もっと社会に深く根差した文化に原因があるようにも思えます。すなわち、「イノベーションのジレンマ」にも関わりますが、日本は高度経済成長を実現し(もっともこれは人口の増加が主因)、製造業の競争力は世界を席巻することができたという日本人のきめ細やかな気質や、親方日の丸の下での集団志向、あるいは、滅私奉公という気質に深く根差した組織文化があるのではないでしょうか。

  1. 上意下達で何ごとも甘んじて受けとめ自己犠牲で尽くす気質
  2. 縦割り組織の中で組織の維持を優先する思考の癖
  3. 匠の文化によって育まれたこと細かな対応を求める組織文化
  4. 職人の時代から育まれた緻密な分業作業の文化
  5. 事実(データ)よりもこれまでに培ってきた勘や経験知を重視して変化を軽んじる風潮

 こうしたことの問題の本質は、①情報の非対称性に甘んじる気質、②ルーチン化による業務の固定化による情報の偏在化でありその結果、企業や組織内の情報が「サイロ化」されることです。それは、どんなに多様性が大事だと言っても、「社会の持続可能な発展 “sustainability” 」への移行が求められていると言っても、あるいは、どんなにIT化が進んでデータサイエンスに取り組んでも、「セレンディピティ」の機会が創出されないということを意味します。そしてその結果として、日本ではパラダイム・シフトを起こして社会を変革させるようなイノベーションが起きないし、カイゼンは出来ても組織変革につながらず生産性も高まらないということになってしまいます。

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