何故、今、「人権重視の経済社会」なのか
利潤を追求する企業の経営において、「人権」は馴染みの薄い言葉だったかも知れません。確かに、人については、「株主」「経営者」「顧客」「従業員」という認識はあっても、それはあくまでも事業に関わる対象としてでしかありませんでした。
今では、国際社会において「人権」への意識が高まっており、日本においても「人権」への機運が高まってきています。企業経営においてもパーパス経営(社会の中で企業が存在する意義、個々人の生きる目的を重視する経営)の文脈で「人権」が強く意識されるようになってきています。
「人権重視の経営」とは
ネガティブに捉えた人権重視の経営
企業における「経済システム」は、もちろん、投資と回収、市場や需要と供給、競争と協業、収益やキャッシュフローに関わるシステムですが、SDGsへの取り組みやESGへの取り組みが求められる中で、「人権」を軽視することはリスクと見なされ、「人権重視の経済システム」が企業経営に組み込まれるようになってきました。こうした経営環境の変化をネガティブに捉えるならば、「人権重視の経営」がなされていないと見なされれば、その企業は事業を継続することはできず、存続できなくなってしまいます。
ポジティブに捉えた人権重視の経営
ポジティブに「人権」を考えるならば、そして、パーパス経営の文脈で考えるならば、「人権重視の経営」を率先して取り組んでいる企業は、社会の中で尊敬される企業であり、社会から愛される企業になり得ると言えます。それは何よりも「最高のブランディング」となり、それこそ「他に真似のできない希少な優位性」を築くことにつながっていきます。日本人は、かつて、「エコノミック・アニマル」と揶揄されましたが、世界の中で「尊敬され、愛される存在」になることが、これからの日本の経済発展を支える礎になると言えるでしょう。
人権重視の経営としての取組みとは
以下は、社会発展の方向性である「人権重視の経済社会化」に対する取り組みを例示したものです。
- 多様性を包摂したビジネス(製品、サービス、プロセス)をデザインして展開する。また、フェアトレードやエシカル消費にこだわって素材や原材料を調達する。
- ステレオタイプで消費者を捉えるのではなく、単に、個々人のアイデンティティを実現すれば良いというのでもなく、個々人の生き方に密着したコトの消費(経験価値の消費、すなわち、ストーリーの消費)を実現して、一人ひとりの日々の生活の中に「和らぎや喜び」を提供し、人と人がつながっている社会の中に新たな感動の文化(感動の輪)を拡げていく。
- 従業員が尊厳を持って働ける環境と公正な労働条件を確保するだけでなく、経済的にも社会的にも自立し、自らの意志によって自律して生きる目的を実現していけるようにする。
- 質の高い教育機会を平等に提供する。企業にとっても、新たな企業価値の創造にもつながり、そこで個々人にとっても、自分の能力を最大限に発揮できるようになり、自分らしい人生を築いていける力を獲得することができるようになる。
- 事業を通して、自由、平等、平和(非暴力)を大切にするメッセージを社会に拡げていく。
「尊敬され、愛される存在」になる
日本企業は、環境経営では先行していましたが、この10数年の間に、すっかり遅れをとってしまいました。人権を重視した経営に率先して取り組んでいくことは、これからの世界の範ともなりうる分野です。世界の中で「尊敬され、愛される存在」になり、これからの日本の経済発展を支えていこうではありませんか。
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一