私が “こと”, “ことづくり” という言葉を目にしたのはもう20年も昔のことである。情報戦略についてコンサルティングをするために訪問した“ものづくり企業”の社員向け掲示板に “ものづくりからことづくりへ” といった主旨のチラシが掲載されていて、その発想の転換に興味を覚えた記憶がある。おそらく、顧客の日常の様々な “こと” に思いを巡らせて “もの”, “ものづくり” をデザインしようということだったのだろうと思う。
今、“ことづくり” という言葉はいたるところで使われている。
しかし、“こと” に関する理解が進み定着したとは思えない。何か “こと” を考えると、すぐに、箱物(施設や設備)を作ろうということになり人を集めるためにイベント(出来事)を企画しようということになる。もし、金融機関に融資をお願いするにしても、箱物の担保がなければなかなか応じてはくれないだろう。
先日、拓殖大学拓殖大学政経学部の山本尚史教授とお話しをさせて頂く機会があった。山本先生は米国発エコノミックガーデニングを日本に定着させようと活動されている。エコノミックガーデニングは、企業の誘致や補助金で施設を建てて地域活性化するこれまでの発想ではなく、地域の中にもともとある魅力、例えば、文化、地元企業や老舗企業の伝統の技術、地域に暮らす人と人のつながり、地域発の新たな発想の人達の事業といった地域の魅力ある資源を大事にして育んでいくことで地域が元気になり活性化するという発想の取り組みである。
エコノミックガーデニングのホームページ:http://www.economic-gardeners.jp/
山本先生のご指摘は、人は“面白いこと”に関心を持つが“つまらないこと”には興味を惹かない。“ことづくり” には、“面白い” が仕組まれデザインされていないといけないということであったと思う。ごく当たり前のことであるが、便利だ、効率だ、品質だ、リスクだ、と言っても面白くない。
ご当地グルメなどのイベントは確かに面白いし、面白いから人が集まる。
企業でも、人を喜ばせる仕事をすることは楽しいし、一人ひとりの創意工夫が活かされればモチベーションも上がり仕事も面白くなる。
ことづくり経営の原点は、人の日常生活の中で面白いことをデザインすることであると言えよう。そしてそれは、面白いことを発想し創意工夫で実現できる多様な人々が、内発的に自律して働ける職場を創り出すことでもある。
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役 池邊純一