目的思考、メタ思考、メタファーとデフォルメ、アウフヘーベン

 今、世の中では論理思考が重要だと言われています。しかし、本当にそうなのでしょうか? 論理思考とは何かと言うと、主に、演繹的思考と帰納的思考です。一般化した問題について因果関係が正しいと認められているなら、個々個別の問題にその因果関係を当てはめても正しく成り立つと考えれば演繹的思考になります。例えば、病気の症状が同じならその原因が特定され服用すべき薬も決まってきます。一方、いくつかの個別の事例で因果関係が成立しているなら、一般的にも正しいと考えるのが帰納的思考になります。例えば、ある人においてこの症状の時にこの薬を服用するとよく効くから、同じ症状の他の人にもこの薬を服用しようと考えるものです。

 しかし、いずれにしても、その問題に対する捉え方の範囲や前提条件の設定が正しくなければ、答えも正しく導き出されません。知見があまりなければ演繹的思考の結果も浅はかなものとなりますし、経験則に頼った帰納的思考でかじ取りしていては想定外の事象が起きたときに危うくなります。経営を考える上で真に重視しなければならないことは、むしろ、その問題に対する捉え方の範囲や前提条件の設定そのものです。
 組織の中では、鶴の一声や人事権を持つ人の声高な意見によって意思が決まってしまうことがあります。しかし、その場合、この「問題に対する捉え方の範囲や前提条件の設定」という過程によって認識すべき問題が見過ごされ、認識されないまま内包されてしまう可能性が高くなります。人には、それぞれにものの見方があり様々な知見があります。組織の中に多様性があることではじめて「問題に対する捉え方の範囲や前提条件の設定」そのものが検証され、正しく論理思考が機能することが可能になります。
 

目的思考

 忙しい日々を過ごしていると、ついつい目的を見失ってしまいます。そして、様々な局面でものごとを合理的に判断しようとして、演繹的思考や帰納的思考に陥ってしまいがちです。しかも、ビジネスの世界では、常に結果が求められるため、まだるっこい話しはともかくとして、とにかく結論を示せと迫られることが多いというのが実態です。
 しかし、「経営において論理思考が正しく機能するための条件」でも記した様に、論理思考には、「問題に対する捉え方の範囲や前提条件の設定」に問題が内包されている可能性があります。日々の様々な局面において真に正しいと思っていても、実は、不十分な前提に立った論理思考に頼っていたばかりに、不備のある結論を出すことにもなってしまいます。さらに、組織において論理思考によって一つの方向が決まってしまうと、誰も責任を取りたくないから、組織全体として道を誤り続けて問題を深刻化させていくことになります。
 世の中が多様に変化し、常に様々な状況や利害が複雑に絡み合う中で、最も重視しなければならないことは「目的」です。錯綜する情報の海にあって、ぶれずにまっすぐ進んでいくためには「目的」が見えていなければならなりません。そして、その「目的」が実現されるために何が実現されていなければならないかを遡って考え、その遡っていく過程で、今ある状況との乖離を把握していくと、そこに問題の認識が生まれます。多様な状況にあっては「目的」から遡って考えるこの問題認識の過程が重要です。
 ここで、単に、現状と目的の間にあるギャップが問題であるというのではないということに注意しなければなりません。最も大事なことは、「目的」を「目の前に起きていることばかりに囚われて設定してはならない」という点です。そこでこの問題意識にある欠落を取り除いて問題をきちんと認識していくためには、①目の前で見えていることだけでなく、②誰もが知っている先人が構築した知識を踏まえた上で、③社会に対する大義という個々の殻を打ち破って、④もっと大局的に社会システムの有り様におけるあるべき理想と今の事実との間に生じている矛盾に思考を掘り下げて考えていくことが必要となります。
 

メタ思考

 情報技術の世界では、“メタ” という言葉をしばしば用います。“メタ” とは「高次の」とか「超越した」とかの意味がありますが、「目的思考」と同時に「メタ思考」により、「目的」を上記①~④の思考を用いて、より高次に、より多様なものごとを広範に内包できるまでに超越したものとしていかなければならなりません。さもなければ、せっかく「目的思考」に基づいて「目的」を考えても、目の前に起きていることに囚われた帰納的思考の標的としてさらされるだけになってしまいます。
 

メタファーとデフォルメ

 目的思考とメタ思考には抽象化して考える能力が必要です。しかし、抽象化してしまうと、具体的なイメージが分からなくなる可能性もあります。そこで、抽象化して思考したものを分かりやすく表現する技法として、メタファーとデフォルメが必要になってきます。
 広辞苑第六版によれば、メタファーとデフォルメという言葉は、以下の様に定義されている。
●メタファー:【隠喩法】(metaphor)

①ある物を別の物にたとえる語法一般。
②修辞法の一つ。たとえを用いながらも、表現面にはそれ(「如し」「ようだ」等)を出さない方法。白髪を生じたことを「頭に霜を置く」という類。
③修辞法の一つ。あるものを表すのに、これと属性の類似するもので代置する技法。

●デフォルメ:

絵画・彫刻などで、対象や素材の自然な形態を意識的・無意識的に変形すること。歪形。デフォルマシオン。

メタファーにしてもデフォルメにしても、目的思考やメタ思考で考えたことを分かりやすく伝える手段として利用しなければならなりません。未来社会における価値をメタファーで表現して、その特徴を正しく強調することによって有用性が第三者にとっても理解しやすく示されます。
 

アウフヘーベン

広辞苑第六版によれば、アウフヘーベンとは、日本語の「止揚」として、『「廃棄」「高めること」「保存すること」の意)ヘーゲルの用語。弁証法的発展では、事象は低い段階の否定を通じて高い段階へ進むが、高い段階のうちに低い段階の実質が保存されること。矛盾する諸契機の発展的統合。揚棄。』と定義されています。
 ビジョンを描いていく過程において、当初は正しいと思っていたことでも、思考が浅く奥底にある矛盾や問題点を認識していなかったといったことがしばしばあります。しかし、そうした矛盾や問題点の存在に気づいて解決していくとこで、より高い理想像に近づいていくことができます。
 今、多様性が重要だと認識されています。色々な価値観や考え方の違いを受け容れていくことで、ともすれば一面的にしか捉えられていない思考に、新たなアイデアが注ぎ込まれ、結果的により良いものとなっていきます。この考え方の根源には、アウフヘーベンの思考があります。ここで、大事にしなければならない思考は、違いを受け容れることと、敢えて内在する矛盾や問題点を抱え込んで許容することです。違いを拒絶することによってはアウフヘーベンは起こりえません。矛盾や問題点を許容して解決策を織り込んでいくからこそ、より高い理想ことができるのです。
 

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