日本の社会は1990年初頭以降、10年、20年、30年と時を重ねながら長期にわたる経済成長の停滞を続けてきました。経済が成長していく原動力はイノベーション、特に、ディスラプションですが、高度経済成長期に見られた先進的なイノベーションも創出されない陰鬱的な状態が長らく続いています。
この間、デジタル技術を駆使したグローバリゼーションが深化し、近代化を支えた大量生産・大量消費による産業資本主義は、データを競争優位性とするデジタル資本主義へと変容してきました。世界の趨勢として、さらに、経済価値追求のビジネスモデルからESG(Environment、Social、Governance)に配慮したビジネスモデルへの転換が求められるようになってきました。
社会発展のために経済成長は欠かせませんが、人口減少社会では自ずと経済規模が縮小していきます。近代化を支えてきた「規模の経済」の発想ではなく、経済規模が縮小しながらも社会が発展していく新たな発想のディスラプションを考えていく必要があります。
新たなディスラプションを生み出していくための方向性
現在、世界では技術革新への期待が先行し、DX(Digital Transformation)、AI(Artificial Intelligence:人工知能)、IoT(Internet of Things)などに関心が集まっています。また、そうした状況の下で「第4次産業革命」が盛んに喧伝されています。
しかし、20世紀後半にもてはやされたポストモダンの思想もすでに色あせており、モダニゼーション(近代化)の起点となった「産業革命」の発想のままで、果たして未来社会の発展を託していける新たな発想のディスラプションを創出していくことができるのでしょうか?
本質的には、これら技術革新の先にある社会とは「どのような発展を遂げていく社会であるのか」「社会変革がどのように可能であるのか」を掘り下げ、また、21世紀のこれからの社会に向けて発想を転換するために、これまでの「産業革命」の延長上ではなく、未来に向けて「社会を変革することによる社会発展の物語」を弁証法的に描いていくことが必要です。
こうした思考によって“社会変革の根源とは何であるか”を突き詰めた先にこそ、目指すべきディスラプションの方向が見えてきます。
現代人の思考の問題点
社会がどのように変化していくかは偶有性によるところでもあり、現実的には下記のように、ものごとを突き詰めて考えるよりも状況の変化に即応して考えることの方が重視されます。モダニゼーションへの思考に慣らされ、常に時間に追われている現代人は、ものごとを突き詰めて考える余裕がなくなっています。
- なにごとも利便性や収益性に還元してものごとを考える。
- 要求されているものごとの優先度と答えの正当性を追求するあまり、それにそぐわない考え方を排除してしまう。
- 経験や知識、法則性にあてはめて“要するになんであるか”を思考し、論理的思考を簡素化しようとする。
- 問題に対処するために、根底にあることよりも、まずは目の前に顕在化していること、すぐにできることから考えようとする。さらに、優先順序を示すことにより、全体の解決を目指しているように取り繕おうとする。
一方、深掘りしようとすると、分析的思考の罠にはまって、ものごとの本質や思考の目的を見失いがちになってしまいます。
- ものごとをどのように構造化するか、あるいは、ものごとがどのような原理で構成されているかばかりに目が向いてしまう。
- ものごとの細部を突き詰める余り、こと細かいことばかりに思考が囚われてしまう。
こうした思考の問題点により、前提条件について疑って疑い尽くし、原因や動機について“なぜ”を繰り返して掘り下げようとしても、根底にある人の信念や価値観が障壁となり、普遍的な『ものごとを突き詰めて考える』ことが妨げられてしまいます。
社会変革の根源を突き詰めて考えるためのフレームワーク
“創造的に思考する” とは『ものごとを突き詰めて考える』ことに他なりません。しかし、何をどのように突き詰めて考えるかという思考の戦略を立てなければ、思考の問題点が障害となり、その努力は徒労に終わってしまいます。
当フレームワークでは、図に示すように下記命題を設定して思考の形式化を図り、「どのように社会変革の根源となりうるのか」を問い直していきます。これにより、製品やサービスを深掘りしてビジネスの本当の価値を見いだしていくことが可能になります。
- 高い視点から抽象的に考える:そもそも、それは何であるのか
- 多角的視点から価値を考える:そもそも、それはどういう意味があるのか
- 広い視点から網羅的に考える:そもそも、それは他と何が違うのか
- 深い視点から実現像を考える:そもそも、それはどのように可能であるのか
なお、本フレームワークの適用に際しては、当社が独自に開発した思考方法論 “Trigonal Thinking”(商標登録申請中)、および、思考の知識データベース “Thinking Map” を活用します。
なぜ、社会変革の根源を突き詰めて考えるのか
“社会変革の根源とは何であるか”よりも目の前にある事業収益が先だと考えられがちです。しかし、どの企業にも共通に認識されている問題の本質は、人口減少する日本社会における経済成長であり、人手不足が喫緊の課題となってきています。
人口減少により人手不足が進む中で事業を継続し成長させていくためには、創造性を高めて、かつ、生産性を向上させていくしかありません。そのためには、一人ひとりが“本当の価値”に共感して、ディスラプションに向けて創発し、自律的に内発して行動していけるようにするのが近道です。“目指すべきビジネスの本当の価値”を明らかにすることこそが、独自性のある競争優位性を生み出す原動力となるのです。
ビジネスシーンへの適用
企業経営には、3年先、5年先の未来を見通した中長期計画の策定が求められています。収益を上げていくことの根拠として、事業の市場性ばかりではなく、現在では、特に、事業がどのように社会発展に役立っていくかを示すことが求められてきています。
当フレームワークは、未来に向けてどのような社会的価値を提供していくかを描くものであり、こうした社会の新たなニーズに応えていくことが可能となります。
一方、社会の変化は偶有性によるところでもあり意図した通りにはならず、常に、社会の状況を捉えて、経営戦略の方向性が正しいか確認していかなければなりません。当フレームワークを日ごろのPDCAサイクルで活用することにより、本当に今の施策が「社会変革の根源となりうるのか」を問い直すことができます。従業員との間で、常に、問題意識を共有し、思考の方向性を確認していくことができるようになります。