真の意思疎通は何故できないのか?

目の前にある同じ現実(できごと)に対しても、人はその場の状況と立場に合わせて異なる解釈をするものです。また、自分の意見を通すためにも現実を自分の都合に合わせて解釈するものです。
私たちは、日々の生活や仕事の場において、様々なコミュニケーションを図っていますが、その会話の中身は、着飾った自分ではなく心の奥底にある本当に自分として意思疎通しているとは、実のところ言い難いのではないでしょうか。

1.意思疎通ができないということ

「意思疎通ができないということ」の典型例から見た類型を示します。

  • 「話しがかみ合わない」:これは、話しの次元が異なっている場合に相当します。「ご飯論法」が有名です。故意に相手の話している論点を外して会話する技法です。国会答弁などでよく見受けられる光景でもあります。また、話しのレイヤをずらすということもしばしばあります。顕著なのは経営と現場の会話で、一方ではトップダウンで経営課題の改善を主張しているのに、もう一方ではボトムアップで現場の問題の改善を主張するというものです。
  • 「一体全体、何を言いたいの?」:お互いに自分の抱いている観念で話し合っても意思疎通をすることはできません。言葉遣いの違いもあり、お互いに解らない言葉で話し合っているということもあります。人は、自分の解釈を説明するために論的に都合の良い言葉を選んで話すものです。
  • 「それって、正しいの?」:もちろん、そもそも認識に抜け漏れがある(完全でない)場合もあります。しかし、それ以上に、別々の権威(前例や知見)に論拠を求めている場合や、抜け漏れ重複や矛盾を批判して意図的に相手を論駁しようというときの会話です。
  • 「イメージが湧かない」:異なる前提や異なる対象をイメージしている場合、その異なるイメージの中で具体論を求めても、何が何だか理解しようがありません。「どんな手順で何をしたら良いか分からない!」といった言葉の応酬がある場合に見受けられる状況です。

2.意思疎通ができないことの背景にある心の動き

この様な会話を繰り返していては「真の意思疎通」は実現されることはありません。しかし、 人と人の間には相性や好き嫌いがあり、どうしても受け入れられないという場合もあります。こうした属人的な側面や恣意的な側面が、お互いの考えていることの理解を阻みます。
特に、人と人との会話は言語情報よりも視覚情報や聴覚情報に大きく影響されます(メラビアンの法則)。また、人は自分にとって心地よいことは受け入れやすく好ましくないことは避けたいという心理が働きます(感情バイアス)。さらには、状況に応じて選択するものが異なる場合もあり(フレーム効果)、第三者の意見の方を信じてしまうという心理も働きます(ウィンザー効果)。