#220 知識創造/探索/再利用の基盤

 個々人の意識が高まり、組織からも自立して、自らの思いの実現を目的として内発的に行動し始めると、人から教えられたり、指図されたりすることなく、自分の力で仮説を立てて知識を探索する様になる。

 21世紀初頭には検索エンジン技術(ネットワーク上にある特定のキーワードをクロールする)が広がったが、ソーシャルネットワークが普及するに従いキュレーションサイト(纏めサイト)が流行し検索エンジンは下火になった。ただ、当初より期待されたセマンティック・ウェブやオントロジーの技術開発は十分には進んでいない。

 21世紀の中頃前には人工知能は人間の知能を超えるとも言われている(シンギュラリティ)。早晩、ソーシャルネットワークにつながった知識ベースが人格を持った人間(VRによる映像)の様に人と対話しながら新しいアイデアを創り出していく様にもなると考えられる。抽象化された目的と知識ベースや人工知能の深層学習に必要なパラメータが紐づけられ、目的に対する具体的な目標値を設定することによって人工知能が起動し、当該目的を達成するためのストーリーやプロセスを提示してくれる時代も近くに来ている。そして、その採用の可否の経緯や実施結果が知識ベースや深層学習機能にフィードバックされ、機械が賢くなっていく(「知をつなぎ協創するネットワーク」より引用)。

 しかし、それ以前に、知識ベースのモデリング技術を確立することが必要である。組織の中でも同じ言葉が様々な意味で使われることも多く(多義性)、時間の経過でその意味合いも変容し、ある情景や状況に置いても異なってくる。言葉の意味を定義するのは組織であり、組織の中でどの様にイナクトしていくかということが、そもそもこの問題の解決を難しくしている。即ち、こうした背景により、従来の辞書的な発想(タクソノミー)で知識ベースを構築することは見果てぬ夢に終わってしまうのである。とは言え、翻訳ソフトが徐々に品質を上げてきている様に、人工知能の学習機能を活用すればこの問題はやがては解決されると期待される。

 未来社会に向けての価値を創造していくための、あるいは、未来社会の持続可能な発展を実現していくための、知識創造/探索/再利用の基盤技術は、人工知能の学習機能、組織心理学、哲学の分野の知識を結集して実現化されていくものと考えられる。しかし、ポストモダンの発想で確立された組織心理学やモダニズムの哲学を更に進化させなければ、この問題へのアプローチは難しいかもしれない。その意味で、ポスト・ポストモダンの社会学やインテグラル理論の発想を取り入れていくことも必要になってこよう。

サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一

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