思考の変革

 それまで拠り所としてきた知識を棄却すること、身に染みついている文化や慣習を変更すること、習慣を変えること、使い慣れた道具を新しいものの変更することは難しいことです。
 一般的な知識として、私たちは、社会の変化を察知して(あるいは、予見して)素早く適応していくか、スピード経営が大事だと言われてきました。ビッグデータと言われていますが、これはまさに、今起きていることをデータから素早く多面的に捉えるということに他なりません。
 しかし、本来、それ以上に重要なことは、社会のあるべき方向性を思考して、自ら進んで社会を変革していくことです。これからは、社会の変化に受動的に思考し素早く適応していくことではなく、未来へのビジョンを描いて率先して社会変革を導いていく ように思考を変革していかなければなりません。
 

日本人の思考の特性

  日本人の特性は、集団思考であり、集団の秩序、制度、組織を守っていくことが暗黙のうちに最優先と意識されます。周りから優れた知識を取り入れ、独自のものを生み出していくことには長けています。逆に、フロンティア精神をもって、未来を考え、それまでにない新しい概念を生み出すことは不得手です。[注釈1参照][注釈2参照]
 

我々は、どのように独自性を発揮していけるか

 日本人は、元々は、“結の心” で、お互い様で助け合いながら暮らしてきました。四季のある豊かな自然環境に囲まれて、日々の暮らしと自然環境を融和させて生きてきました。世界の国々と比べて、超高齢社会とも、人口減少社会とも言われ、社会的課題先進国だとも言われていますが、こうした社会問題を解決する独自の技術を、世界の国々に先駆けて構築していく環境も揃っています。[注釈3参照]
 

世界の思考の潮流を振り返る

 近代化が進められた以降の欧米を中心として展開されてきた社会思想の発展の系譜を下図に示します。

 
 大まかには、大量生産・大量消費を目指した近代化の流れは、デジタル技術によってデジタル資本主義へと進化し、現在では、多様性と包摂性を重視する社会に向けた思考へと変容してきているという流れになってきています[注釈4参照]。
 そして現在、新型コロナウイルスの世界的感染拡大(パンデミック)により、ニューノーマル(厳密には ニューノーマル2.0)と言われる社会変容の時代を迎えつつあります。
 

世界の思考と日本の思考を融合させる

 多様性と包摂性を重視する社会を創造していくためには、利己的であるばかりでは答えを見いだすことはできません。特に、日本人の心の奥底には、利己的な経済合理性よりも集団思考を優先する思考、お互い様の心遣いの思考があります。
 欧米的な二項対立の思考は分かりやすく図式化できますが、日本人の心情としては、ものごとを二項対立で捉えて弁証法(アウフヘーベン、止揚)によって解決していこうという思考も相応しくないかも知れません。どことなくみんなが納得する解決策、それがたとえ『三方一両損』的な解決策でもよしとする思考が底流にあります。
 多様性と包摂性を重視する社会を創造するためには、日本人の思考特性を生かし、そこに欧米的思考を融合させていく ことが求められています。
 

新たな思考様式

 社会のあるべき方向性を思考していく上で心掛けておくべき最も重要なことは、自ら進んで社会を変革していくという意識です。これからは、社会の変化に受動的に思考し素早く適応していくということではなく、自ら未来の社会における新たな豊かさとは何かを描き、そこから逆算して社会変革へと導いていく仕組みを考えるように思考の有り様そのものを変革していかなければなりません。

  1. 未来と社会のことを考える
  2. 自らの存在価値を考える
  3. 何が必然であるかを考える
  4. なぜ、それが可能であるのかを考える

 

“ひらめき” のできる創造的思考

 私たちは、今、検索エンジンを利用しています。そこでいつも、本当の問題、すなわち「どんなキーワード」で検索したら良いか、キーワード自体を知らなかったり、思いつかなかったりしています。検索エンジンで調べていると、その中に自分の知らない用語が出てきて、そこからまた、新たな検索のチェーン(知識のチェーン)が生まれていきます。
 しかし、それは本当に創造的思考と言えるでしょうか? 誰かの知識を辿っているだけで、新たなアイデアを創造しているとは限らないのではないでしょうか?
 新しいアイデアのひらめきは、何も考えていないものが突如として湧き出してくるものではありません。“ひらめき” は、自分がその生き様を通して、長年の間、常に考えてきたことと、他の人のアイデアや知識が巡り合ったときに、瞬間的に発現してくるものです。そして、ひらめいた瞬間に、頭の中で準備されていたプロセスが活性化して創造的思考とつながっていくものです。[注釈5]
 

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[注釈]

  1. 日本列島に人が住みつき始めたのは3万年前と言われています。その後、周辺地域の他の民族からの侵略は殆どなく、むしろ、周辺国の人々や知識を積極的に取り入れて、自分なりに改善して、独自の文化を生み出してきました。周りを海に囲まれた狭い地域の中で人々は、生まれ育った土地や地域社会に囲われ、例えば、“結の心” でお互い様で助け合いながら暮らしてきました。「和を以て貴しとなす」「出る杭は打たれる」といった言葉がある通り、人々は、そこで暮らす集団の中で思考し、その集団の中で受け継がれてきた秩序、制度、組織を守っていくいくことをまず第一と考えてきました。
     明治維新以降、戦後の高度経済成長期に至るまで、日本人は近代化を進めている西洋の文化や技術を積極的に取り入れ、それを改良して独自の技術を生み出してきました。
  2. 思考と言えば、日本人はすぐに論理思考であると考えがちです。しかし、代表的な論理思考である演繹思考も帰納思考も、最初に何らかの命題が前提として成立していなければなりません。統計手法は、前提として成立だろうと打ち立てた仮説を検証するものであり、あるいは、現実のデータに隠された特性を解釈するための手法でしかありません。
     人間は、相手との関係で色々と思い悩みながら自らの意思を決定しています。ゲーム理論は、こうした相手との関係の中かから自分にとっての最適解を見つけ出す手法です。囚人のジレンマ問題が有名ですが、人は全て利己的であり、自己中心的にものごとを決めているという前提に立っています。
  3. 20世紀の大量生産・大量消費社会の実現(即ち、近代化)を目的としたマネジメントの仕方を学んできた人たちにとっては、今現在、何が起きていて、それがどのようになっていくのか、それが市場にどう影響してどうなっていくのか、顧客のニーズがどう変わって、今後どう変わっていくのかを捉えて行動するということがマネジメントの基本だとされてきました。そうした変動の中で、新規市場が開拓され、その市場が成長し成熟し衰退して、経済も成長し停滞しイノベーションにより再活性化していくというのが、シュンペータのイノベーション論であり、経済発展の理論でもありました。そして、250年程前の産業革命以降、ひたすら産業化と近代化を目指すことによって、自然環境を破壊し、経済格差を生み出してきました。
     21世紀になると、人がより良く生きていくためには、人権や自然環境の保護が重要視されるようになりました。企業も顧客も、今あるグローバル社会や地域社会の中で生きていて、生かされている存在です。
  4. これまでの社会思想の発展過程で、共産主義体制が崩壊し、ポストモダンの思考も衰え、市場主義と競争原理を至上とする新自由主義の思想も、過度の経済格差を生み出して貧困問題などの様々な社会問題を引き起こし、経済発展優先が自然環境破壊の問題を引き起こしてきたという認識が広がってきました。
  5. セレンディピティという言葉がありますが、ひらめきは、思いもかけない情景の下で、全く異なる思考同士が巡り合った時に、欠けていたピースが見つかったときのような感覚で現れてくるものです。ひらめきや創造的思考は、検索エンジンにも、人工知能にもできないヒトの脳の重要な働きです。人工知能には、自分の実在を考えて、社会との関わりを解き明かしていこうとする哲学的思考を行うこと、まさに、創造的思考を行うことはできません。