社会の変革(多様さと寛容さの社会システムへと変革する)

 イノベーションは、もともとは経済成長の理論です。しかし、イノベーションは、単に、GDPを高めていくだけのもの、富を増やす手段としてのものではなく、本来、「いかに生きるべきか」という人間の本質にある問いに対して、その時代の制度や技術、文化のレベルに即して未来に向けて実現可能な答えを人々に提供し、その結果として社会の発展にもつながっていくものでなければなりません。

 人間は、どうしても目先のことに対する現在バイアス、今の状態に満足いていれば敢えてリスクを負って変わろうとはしない現在維持バイアスを持って生きているものです。しかし、社会が成熟しある一定の均衡が保たれ、旧態依然とした状況が長期間続くと、経済成長は停滞し膠着状態に陥ってしまいます。イノベーションは、そうした膠着状態を打開するきっかけ(すなわち、イノベーション・ショック)を社会に与える得るものです。そして、そのきっかけから機会の窓が開き、新たなビジネスが続々と生み出され、新たな産業が生まれ、経済成長が実現されていきます。
 

「売れている商品=イノベーション」なのか?

 「売れる製品=イノベーション」と考えるのはあまりにも短絡的です。この点、誤解している人が多くいます。新技術によって実現される商品や斬新なアイデアが売れたとして、果たしてそれが本当にイノベーションであるのか、まずは、以下の点に沿って「売れている商品」(あるいは、売れ筋になると見越して企画している商品)について問いかけてみることが必要です。

  • それが社会の発展にどう寄与し得るものなのか、人々が「いかにいきるべきか」にとって有益なものなのか、といった存在意義が設計思想に織り込まれていなければならなりません。それはすなわち、イノベーションを興す人の根底に社会における存在目的や将来社会に対するビジョンが備わっていなければならないということになります。
  • イノベーションは、創造的破壊をともなう出来事でもあります。それは、仕事の進め方やものの作り方の日々の改善ではなく、様々な革新的努力が積み重なり(新結合)、大きな変革(社会システム、社会文化や組織文化、一人ひとりの仕草、社会生活をする上での基盤(プラットフォーム)の変化)が社会全体に急速に広がっていくことです。

 

目指すは「売れる商品」ではなく「ディスラプション(ディスラプティブ・イノベーション)」

 上記の文脈によれば、「売れている商品」(あるいは、売れ筋になると見越して企画している商品)がイノベーションであるためには創造的破壊、すなわち、ディスラプション(ディスラプティブイノベーション、日本語には破壊的イノベーションと訳されています)をともなうものでなければならないということになります。

  • 膠着状態にある社会の中では、既存商品に対する機能の変更や新たな機能の追加等が繰り返されることの方が一般的と思われます。これは持続的イノベーションを言われるものです。ユーザーにしても手慣れた使い勝手の方が受け入れ易いでしょうし、融資したり投資したりする人たちにとっても回収の見込みや利益率を判別しやすいので、資金を調達する上でも有利になります。
  • 既存の商品に企業が支えられているのに、その商品の売り上げを下げるような新たな商品を開発して市場に投入しようという決断はしづらいものでしょう。しかし、市場が飽和し競争が激化してくると低価格競争になってしまい、企業の体力も失われていきます。そこでブルーオーシャン戦略に舵を切ろうということになりますが、それを繰り返してもやがては限界がきてしまいます。

 本来、企業が最も大事にしなければならないことは、社会にとって「何故、その企業が存在しなければならないのか」という企業の存在意義そのものです。人々が「いかに生きるべきか」にとって有益なものを提供し、社会の発展に寄与していくことに他なりません。もちろん、短期的にみた利益も必要ですが、企業の存在意義が社会にあってこそ持続的に利益を追求していくことが可能になっていくのです。 ディスラプションを目指すことの社会的背景については、「なぜ、ディスラプション(ディスラプティブ・イノベーション)を目指すのか?」のページ(ここをクリック) をご参照下さい。
 

今の社会は一人ひとりが夫々に QOL “Quality of Life” を求める社会

 現代の私たちは、人と人がコミュニケーションを図るには、「共感する」、すなわち、「共に感じながら相手の話していることを聴き取る」ことが最も重要であると理解しています。一人ひとりが夫々に QOL “Quality of Life” を求める社会を実現していくためには、多様性を受容れ包摂さを持って生きていくことが求められますが、その社会の前提となるのが「共感する」という態度であり、共感する能力です。

  • この「共感」という概念は新しいものではありません。18世紀のイギリスにおいても、例えば、アダム・スミスは『道徳感情論』(1759年出版)の冒頭で「人間がどんなに利己的なものと想定されうるにしても」という文章から書き出して「共感(Sympathy,同感)」[1] について定義しています。<\li>
  • ところが「共感」という言葉は、大量生産・大量消費の社会が訪れた20世紀以降の経済学からは忘れ去られてきました。「自己利益を追求する経済人」を前提とした経済モデルでは「共感」という人の感情に関わる概念を経済とは関係しないものとして扱ってきたためです。
  • しかし、21世紀になると状況は変わり、色々な分野で「共感」という言葉が使われるようになってきました。例えば、マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン校のオットー・シャーマーは『U理論』(2010年出版)[2]の中で「共感知(SENSING, 深い聞き方と対話(ダイアログ)を実践する:頭と心と意志を大きく開いて他とつながる)」という言葉を用いています。
  • インダストリー4.0やSociety5.0では「人間中心」という言葉が使われていますが、そこでは、「自己利益を追求する経済人」の期待効用を実現するための技術的な側面ばかりでなく、多様な人々が包摂さを持って生きていける社会のしくみ(社会システム、文化)をどう実現し発展させていくかが中心的なテーマとなっていきます。

すなわち、21世紀のこれからの社会を生きていくにあたって私たちは、誰もが夫々に抱いている QOL “Quality of Life” について、「共感」という心の眼を通して深く考えていかなければならなくなってきたのです。なぜ QOL “Quality of Life” を求める社会なのかについては、「なぜ QOL “Quality of Life” を求める社会なのか」のページ(ここをクリック) をご参照下さい。
 

『社会を変革する』 どの様に「一人ひとりが夫々に QOL “Quality of Life” を求める社会」を実現していくべきか

 一人ひとりが夫々の QOL “Quality of Life” を求める社会にあって、顧客の一人ひとりのニーズに接する現場の人たちには、夫々の顧客が思い描く QOL “Quality of Life” を実現するための知恵の提供や創意工夫が必要となります。

  • 人は言われたことだけを機械的にこなしていく存在ではありません。言われた仕事だけしかしない人たちばかりの組織には経済発展につながる創造性は培われることもなく生産性も向上していきません。
  • 一人ひとりが夫々に QOL “Quality of Life” を求める今の社会にあっては、企業そのものも「一人ひとりが夫々の QOL “Quality of Life” を実現すること」を存在目的とし、顧客の一人ひとりのニーズに接する現場の人たちがその存在目的に沿って、夫々の顧客が思い描く QOL “Quality of Life” を実現するために知恵を提供し創意工夫していくというモデルを描かなければなりません。

一人ひとりが夫々に QOL “Quality of Life” を求めていく 新たな社会のモデルについては、「新たな社会モデルの探究」のページ(ここをクリック) をご参照下さい。
 

『行動を変革する』 社会の変革に向けて一人ひとりの行動を変革する

 一人ひとりが思い描く QOL “Quality of Life” を実現するために知恵を提供し創意工夫していくためには、大量生産・大量消費型社会という発想を転換して、かつ、新たなデジタル技術の進化(デジタル・トランスフォーメーション)が浸透していく社会、シェアリングエコノミー化する社会等といった新たな社会環境に適応し、さらに、その先を見据えた発想に基づくディスラプション(ディスラプティブ・イノベーション)を思考していかなければなりません。しかし、それは容易なことではなく、誰でもができることではありません。

  • 企業に求められる存在目的をとことん掘り下げてビジョン化し、組織の論理ではなく様々な視点から何をしなければならないかを掘下げ、また、そこに求められる知恵を洗い出し、全体を体系立てた骨格を描いて事業の進め方をモデル化してはじめて、その存在目的の実現のために、一人ひとりが内発し自律して判断し行動することができるようになります。
  • 一人ひとりの行動とは、本来、内発して自律した創造的行動であり、こうした創造的行動を通して全体を体系立てた骨格としてのモデル化が肉づけされていきます。人の創造的な行動は強制によっても、外発的な動機づけによっても一律に強いることはできません。

 「思考は現実化する」という言葉がありますが、思考は行動を生み出し、行動は新たな思考へとフィードバックされて進展していきます。そして、様々な試行錯誤を経て「より深められた思考に基づく理に適った行動の結果」として「思考は現実化する」していくものと言うことができます。
 「考える」という行為そのものも行動と言うことができますが、思考と行動はリカーシブル(再帰的)に深化して展開されていく、そして、現実化に向けた諦めない粘り強い意志と創造性により、創意工夫されていくものだとも言うことができます。一方、技術革新による環境変化、社会システムの進化、社会に浸透している文化、私たちの生活を支えている様々なプラットフォームの進化などにも「思考」も「行動」も影響され、それらとの相互作用で進展していきます。
 こうした相互作用を勘案しながらディスラプション(ディスラプティブ・イノベーション)を創出していく『思考と行動のリカーシブル(再帰的)な深化するプロセス』は、単に、強い意志がないとか創造性に乏しいとかいうことではなく、無手勝法で挑んでも実現することは難しく、それがゆえに、ディスラプション(ディスラプティブ・イノベーション)を創出することは、容易なことではなく、誰でもができることではないと思われているのです。
 
 当社は、ディスラプション(ディスラプティブ・イノベーション)を創出していく思考活動をモデル化し ( “Innovation Transforming”(商標登録出願中、イノベーションを変革する、変革を変革する) と名づけて、社会に新たなディスラプション(ディスラプティブ・イノベーション)が創出されていくことを目指しております。

社会の変革、イノベーションへの取り組みの変革、ディスラプション(ディスラプティブ・イノベーション)にご関心のある方は こちらより お気軽にお問い合わせ下さい。あるいは、info@clem.co.jp  サステナブル・イノベーションズ株式会社宛にご連絡下さい。

 
【参考文献】

  1. アダム・スミス著, 水田洋訳, 『道徳感情論』(上), 岩波文庫 白105-6, 岩波書店, 2003. (原著は “THE THEORY OF MORAL SENTIMENTS”, 1759.)
  2. C・オットー・シャーマー, 中土井僚,由佐美加子訳, 『U理論 過去や偏見にとらわれず、本当に必要な「変化」を生み出す技術』, 英治出版, 2010.