#84 社会的価値を創造すれば会社を成長させることができます

多くの人は、会社で働くことと社会に貢献する活動を全く別の活動だと考えています。また、社会貢献活動と社会的価値を創造する活動を混同している人も多くいます。 もちろん、企業は社会の一員であり、当然のこととして、事業を通して社会に貢献していかなければなりません。しかし、単に、雇用を創出し、法人税を支払ってさいえば良いというものではありません。

先進的な企業において、従業員がボランティア活動に参加するための休暇制度を設けているところが増えていますが、このことは、企業で働くことと社会貢献活動が分断されているために生じる制度と言えます。

コーズマーケティング(Cause Related Marketing)を通して慈善事業に寄付をしたり、ボランティア活動を推奨して社会に貢献したりすることで、企業の存在価値を高めることはできます(企業ブランディングの有効な手段とも言えます)。

 

社会的価値を創造して会社を成長させるには

本来、 社会的価値 をデザインして社会の持続可能な発展に資する事業を興し、社会に普及させ文化として浸透させていく活動でなければ、社会的価値を創造すること にはなりません。

社会的価値を創造する事業の発想として一番分かりやすいのは、省資源(節約して作り、廃棄するものを減らし、大切に使って、使えなくなったものは再利用する)であり、知恵を結集して工夫するにより、人々の暮らしを豊かにしていくことです。 ここで言う資源とは、エネルギー資源や鉱物資源だけではなく、食料資源や水資源、森林資源も含まれます。

経済的価値を創造して会社を成長させる発想から社会的価値創造の発想は生まれてきません。大量生産・大量販売・大量消費の経済モデル(新たに開発した技術の社会への普及モデル)により、商品の価格が下がり、誰もがその所得の許す範囲で、新たな技術を使った商品を手に入れて生活を便利に変えていくことはできます。しかし、グローバルでのゼロサム競争にさらされることで、早晩、低価格競争の状態に陥ることになっていきます。低価格競争の下で生き残るためには、上流工程の事業にコスト削減のしわ寄せが集まり、産業ピラミッドのあらゆるところでリストラ(人員削減)による失業問題を引き起こしていくことになります。

資本主義や共産主義の経済原理が生み出された時代には、地球上の資源を使い尽くす(獲り尽くす)という制約はありませんでした。しかし、今や、世界的に見れば人口は増大し続けており、かつ、経済的にも発展し続けています。そして、誰もが同等な暮らしを求め、より良い暮らしを実現しようとしています。 一方、地球表面上から得られる資源はあまりにも少なく枯渇していきます。需給関係から需要が多く供給が少なければ価格は高騰し、財は富めるものに集まり、多くの人は一層貧困に喘ぐことになります。

社会的価値創造は、経済的価値創造にもつながっていきます。 過去の成功は新たな発想を妨げます。 大量生産・大量販売・大量消費のプロダクトアウトの発想から顧客の視点に立ってものごと考えなければならないと言われてきましたが、この発想の転換は難しく、殆ど全ての人がこの考え方に賛同しているにもかかわらず、自らの事業の発想に囚われて、顧客の視点で考えることができずに過ごしてきました。

顧客の視点に立つと、そこには日々の暮らしがあり、日々の暮らしは社会と密接に結びついています。 顧客の視点に立ついうことは、社会の視点に立つということになります。 むしろ、社会の視点を持って顧客の暮らしを考えることで、顧客の本当のニーズを捉えることができることにもつながります。

最近、ビジネス・エコシステムという発想で事業を展開していこうという動きが広がっています。 これは、環境保護や再生可能エネルギー事業を指しているのではなく、自然界の生態系のメタファーとして、相互に作用しながらビジネス環境全体を育み、関係する皆が柔軟にバランスをとって生きていく経営モデルです。 かつての、自然淘汰や競争優位モデルとは発想そのものが大きく異なる経営の考え方です。 当然のことながら、戦いの論理である win-win でもありません。

ビジネス・エコシステムの発想では、社会(及び、自然環境)としても、顧客の暮らしとしても、企業としても、全てのバランスを考え実現させていくことになります。 このビジネス・エコシステムは、社会的価値創造を進めていくための良いモデルと言えます。

日本国内に限らず、経済発展を遂げた国の多くは少子高齢化社会になり、消費の中核を担う人達は若者ではなく高齢者となっていき、かつ、地球規模で資源が不足し枯渇していきます。こうした時代の趨勢の中で、新たな発想、即ち、社会的価値を創造するという視点に立って、ビジネスをエコシステムのメタファーとして発想することが、これからの経営には求められています。
 
サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一

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