#79 AI(人工知能)をサステナブル経営に活かす (19) Algorithm、Rule Base、Deep learning

 人は、ものごとを客観的に捉え、論理的に思考して、事象を説明することには長けた生き物です。今や、物質は何でできていて、宇宙はどの様に始まったたかといったことを数学的に導き出すところまで近づいています。
 一方、[思考]そのものの仕組みを解き明かすことは、個人差もあって、余り得意ではありません。個人に蓄積された経験知や暗黙知とは何か、直感的な勘とは何か等、そうした形にならないことを表現し、蓄積し、他人に伝承し学習する仕組みすら見出せていません。
 最近の人工知能や人型ロボット(ヒューマノイド)の研究は目覚ましいものがありますが、それはむしろ、そうした研究を通して人や人の思考とは何かを解明しようという取り組みだとも言えます。人型ロボットが人にどんな感情をもたらしうるのか、人がロボットと平和に共存して暮らしていけるのかという社会実験でもあります。

 かつて、人は、迷路探索の解を見つけ出したり(Algorithm)、人の行動の判断基準を登録した知識(Rule Base)を用いて状況に応じた最適な解を推論したりして人工知能の実現を図ろうとしてきました。
 また、最近では、設定した既定の結論(ゴール)を得るために、ひたすら試行錯誤させることによって学習(成功パターンと失敗パターンの蓄積、Deep Learning)させ、状況に応じて最適な解を導き出す仕組みが脚光を浴びています。

 下図「企業経営と人工知能の活用(Algorithm、Rule Base、Deep learning)」は、企業経営にコンピュータ技術をどの様に適用したら良いかをタイプ別に分類したものです。

 

 

 [バリューチェーンの最適化]は、1990年代にもてはやされたBPR(Business Process Reengineering)と様々な数理解析モデル(Operations Research)によって実現された手法です。

 [システムダイナミクス]は、1990年代には確立され2000年に提唱されたビジネスダイナミクスの考え方に基づき、複雑に絡み合いながら連鎖して起こる一連の動きを解明する手法です。
 環境変化の様子そのものをモデル化する一般的なアルゴリズムは見出されていませんが、指標値に応じて何をなすべきかを知識(プログラム化したアクション)として登録(Rule Base)しておき、1998年に開発された検索エンジンの技術を活用してトレンド(環境変化)を捉え、指標の動きから連鎖して起こる事象を推論して、人間(マネージャー)にアクションを提示(Recommend)することは可能です。

 [目標達成のブレークスルー]も、1980年代に提唱された制約理論(TOC:Theory of Constraint)に代表される手法で、数理モデルも確立されています。

 [組織価値のリノベーション]は、当社が名付けた手法です。組織変革や経営戦略に関わる様々な施策(具体的に取るべきアクション)を知識ベースに登録しておき、状況に応じて検索エンジンで検索して関連する知識を引き出して結びつけ、新たな知識を創り出す(セレンディピティによる仮説創造(Abduction))手法です。
 多様性が重視されるようになり、知識を検索して施策を思いついても、それが最適な解であるかを明確に提示(意思決定)する手法(Algorithm、Rule Base)は確立されていません。
 しかし、事象と要因の関係性(関係の有無と関係の強さ)を評価するには、人間の経験知とともに人工知能の学習機能(Deep Learning)を活用することができると考えられます。アンケート調査やエスノグラフィーの活用も考えられますが、どんどん変化していく社会にあって、事象を説明する仮説(hypothesis)を立てて、アンケート等で検証している時間的余裕はありません。むしろ、人間の様々な経験知を蓄積し、または、コンピュータに学習(試行錯誤の経験知を蓄積)させて活用した方が合理的と言えるでしょう。

 現時点では、知能を持った機械に人間が雇われ、指示されて働くという姿を想像することはできません。
 確かに、知能を持った機械は、世界中の情報を集めてほぼ瞬時に分析することはできるでしょう。また、単一目標(例えば、株主価値増大、売上増大、利益拡大、コスト削減)に向けた学習(Deep Learning)と意思決定も可能でしょう。
 しかし、それで本当に、多様性が重視される社会の持続可能な発展、組織力を源泉とする企業の持続可能な成長、一人ひとりの心豊かさを実現し得るとは思えません。
それよりはむしろ、知能を持った機械が状況に応じた幾つかの代替案を提示し、人間がその中から自分達にとって一番良いと思える意思決定をオープンなプロセスによって行える仕組みを構築することの方が、これからの社会の持続可能な発展、企業の持続可能な成長に結びつくのではないかと思われます。

※[経営][意思決定]等は[思考]という視点で捉えているという意味を持たせて、[ ]をつけて記しています。

サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一

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