#74 AI(人工知能)をサステナブル経営に活かす (14) 施策を探索し創造する思考プロセスのモデル化 ②

本コラムでは SAF “Situation Analysis Formula” について、詳細に考えて参ります。

 

 

現実的な視点からのアナロジ

 現実のビジネスにおいては、まずは、売上などを継続的に分析して、期間比、推移、内訳(の比率)から “事象” を捉えて、何故そうした事象が起きたか原因を仮説し、今後の見通しなどを立てるという流れになります。
 しかし、何より大事にしなければならないことは、単に“事象”とその原因を捉えて対策を打つだけの表面的な対策にとどまってはならないということです。
深層に潜む根本の要因を探り、更には、底流で密かにうごめいている動きを見透おして “状況の変化を捉える”、“変化の兆しを捉える”、“その先への変化を興す” という一連のプロセスを、他社にさきがけて揺り動かしていくことが重要です。
 このプロセスを起動させるには、起きている事象の要因は何か、仮説を立てて、データで検証するというデータ分析力を超越した、仮説(アブダクション)を創造する能力が必要です。
 この仮説(アブダクション)を創造する能力は誰にでも備わっているというものではありません。しかし、下記の道具立てを揃えることにより、一定の仮説(アブダクション)を導き出すことは可能です。
 ・分析を行う全体の構図(辿るべき分析の道筋)
   静的/動的、全体/個々を捉える
 ・事実を捉える情報
   企業の中で働く人達からの情報
 ・思考のインフラとしてのナレッジベース
   ビジネス知識ネットワーク(BKN:Business Knowledge Network)

全体の構図

 SAF “Situational Analysis Formula”では、まず、全体を「Impact to social(社会に対する影響度(深層にある問題の解決))」「Productivity(社会的価値の生産性(産出量ではなく、顧客が獲得する価値の総和))」「Expect(顧客期待度)」「Time(優先度(切迫度))」の視点から総合的なバランスを捉えていく仕組みを考えています。
 社会的にインパクトがあっても売上につながらないとかコストがかかるということになれば実現は難しくなります。しかし、どんなに儲かるからとか、安価に提供できるからと言って、社会的価値を生みださないことにいくら投資をしても、結局は、企業としての値打ちは上がりません。また、市場や顧客からの期待度が高く優先度(切迫度(時勢的・政策的な優先度))が高いということであれば、何らかの施策を打たなければなりません。

静的と動的、全体と個々

 ものごとを捉えるには、生起した事象を捉える(Static、静的に捉える)か、変化を捉える(Dynamic、動的に捉える)という観点があります。また、全体を大局的に捉える(マクロに捉える)か、個別にある特性をきめ細かく捉える(ミクロに捉える)という視点もあります。
 静的に捉えた事象は過去の事象の累積(積分)であり、動的に捉えた事象は未来に向けての変化の方向とその強さ(微分)ということにもなります。
 上図「SAF:Situational Analysis Formula」では、まさに、この「ものごとを[静的-動的][マクロ-ミクロ]の両面で捉える仕組み」として、思考の構造化を図っています。
 ここで、商品 P(i,j) は、商品Pi のj という特性(コンセプト、意匠、機能要件等)を表し、C(m,n) は、顧客Cm のn という属性(プロフィール、ライフスタイル)を表しています。

静的視点で全体を捉える


 Static Analysis(静的分析)の目的は、突き詰めて考えていくと、要するに、現時点で捉えた「今、この顧客が何を求めているか:Expect(顧客期待度)」を分析することになります。
 供給者サイドから見れば、マスマーケティングの慣習により、顧客を客層化して分類し標的顧客を定め、エリアで絞っていくことになります。
 一方、顧客視点に立って考えてみると、顧客には様々な趣向があり、消費者心理が働くことから、顧客から見た購買の目的を要因として、商品が想定している利用のシーンやその利便性等との相関性を分析して(この商品特性はこの人に期待されている、この商品特性はこの人は買っていない)、購買につながる因子をあぶり出していきます。

 この分析では、まず、商品 P(i,j) に込めた供給者の想い、顧客 C(m,n) の相関性を以下の様なパターンで分析しマーケティング戦略を展開していきます。
P(i,j)-C(m,n) が整合した領域を “Fit”として、マーケティング活動を展開します。例えば、この商品を買った人はこの商品も買っているといった類のプロモーションを展開していきます。

  1. ¬P(i,j)=¬C(m,n))であって、全く整合しない領域を では“Gap”とします。そもそも、その商品は顧客に全く受け容れられない商品であり、事業として成立しない、撤退すべき領域として、事業の転換を図る必要があります。
  2. P(i,j)=¬C(m,n) は「P-Boundary」と表記されている領域の商品です。供給者サイドで考えている商品特性が顧客ニーズとは異なるもののある点では適合する商品と言えます。この領域は、商品を顧客ニーズに如何に適合させるかという取り組みが試されます。例えば、商品の品揃えの多様化、カスタマイズ、サービス付加価値を提供して、個々の顧客ニーズに商品をフィットさせて顧客に何とか満足してもらう取り組みになります。それでも駄目なら、値引きをしたりするしかないかも知れません。
  3. ¬P(i,j)=C(m,n) は「CP-Boundary」と表記されている領域の商品です。顧客サイドで求めていることが商品特性とは全く異なっていると言えます。この領域では、顧客ニーズに合った商品ではないため、供給サイドとしては、標的顧客を別の顧客層に変更して絞り込んだり、新たな顧客層の市場を開拓したりして、P(i,j)=C(m,n)である顧客を見つけて、囲い込んでいくことになります。

静的視点で個々を捉える


 これまでのマーケティング手法では、販売実績に基づいて、商品の特性と顧客の属性の間での関係性(買われている/買われていない)を分析し、人口動態等から類似した顧客の多い地域で類似の品揃えをして販売促進をしていくという戦略をとってきました。
 しかし、多様性や一人ひとりの個性が重視される時代においては、こうしたマクロな見方では目が粗すぎて対応できません。
 一方、SAF:Situational Analysis Formulaの構図においては、GISの機能を活かして、エリアを更に細かく、ここに暮らしている人をピンポイントで捉えて、その人の購買動向を分析します。
 この分析によれば、[このライフスタイルの人はこの商品を買っている/このライフスタイルの人はこの場所で暮らしている/このライフスタイルと同じライフスタイルの人は他のここにも住んでいる]というシナリオを構築することが可能となります。
 一人の顧客の購買情報から、その地域全体で[この商品を買う人]を割り出すことができ、店舗展開、商品の品揃え、販売促進の戦略をきめ細かく策定することができる様になります。

動的視点で個々を捉える


 Dynamic Analysis (動的な分析)の目的は、この分析の目的は、時間経過に伴う変化を捉えることであり、突き詰めて考えていくと、要するに、「これから、この顧客はどんなことを、どれほどに求めるようになるか:Time(優先度(切迫度))」を分析することになります。
 SAF:Situational Analysis Formula の Dynamic Analysisでは、時点t1から時点t2 までの間でのP(i,j)-C(m,n) の変化の様子、例えば、月々の時系列推移、前期比等を表しています(上図では信号表示で表示しています)。

 ここで最も重要なことは、P(i,j)-C(m,n) について、購買動向の変化(例えば、これまで買っていたものを買わなくなり、他の商品を買うようになった)があれば、その要因を分析するだけでなく、要因を引き起こした社会的な環境の変化と、それが購買の変化を何故、どの様に引き起こしたかのメカニズムを解明し、未来に向けた戦略を構築するための新たなモデルを構築しなければしならないということです。

 社会は大きな出来事で一変し、文化も変わることがありますし、長い時間をかけて徐々に変容していくものもあります。新たなムーブメントが生起し、新たなムーブメントを背景にトレンドも変わっていきます。
 新たなムーブメントが起きてトレンドが変われば、暮らし方も変化します。そして、新たなムーブメントの中で過ごしているうちに、顧客の価値観も少しずつ変化し、趣向(選択肢、選択方法)も変化していきます。そして、トレンドへの関心度も変化してきます。イノベーションの普及論によれば、その欲求の現れ方は、人によっても様々で、優先度も切迫度も異なります。

 一方、その暮らし方を実現してくれる商品に対する欲求も高まります。逆に、引き起こされた凝らし方の変化が、更なる新たなムーブメントやトレンドの変化を引き起こすこともあります。
 商品も新たなムーブメントやトレンドの変化に志向して柔軟に対応していなければ、顧客の変化に乗り遅れてしまうことになりまします。
新たなムーブメントやトレンドの変化のその先を見透おして、顧客の趣向や消費者心理の変化を捉えてビジネスの全体系にフィードバックしていくことが重要なプロセスとなります。

※[経営][意思決定]等は[思考]という視点で捉えているという意味を持たせて、[ ]をつけて記しています。

サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一

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