#207 社会的課題解決のフレームワーク

 多くの社会問題を引き起こしている要因は、少子化、超高齢化、人口減少化、生産可能年齢の総人口に占める割合の低下、人口の都市部への集中化等の人口問題である。少子化は、人口減少化や生産可能年齢の総人口に占める割合の低下を引き起こし、超高齢化は社会保障費の増加につながる。人口減少化は経済の長期的な縮小を意味し、生産可能年齢の総人口に占める割合の低下は社会保障制度を維持していくことが困難になることを意味する。人口の都市部への集中は地方財政の悪化を招き、経済の縮小と社会保障費の増加は国のプライマリバランスの悪化を意味し、将来的には日本の経済破綻へとつながっていく。地方の高齢化が進むことで農山林業が荒廃し日本の食料自給の不安を生み出していく。しかし、人口問題の根源には、経済問題、特に、雇用不安や安定しない収入の問題がある。雇用不安があり将来的にも収入増が望めないのであれば、誰しも子供を欲しいとは思えなくなる。企業が人件費を減らすために非正規雇用を増やしたことで若年層が安定した収入基盤を築くことができないまま独身生活を続け、やがては、生活弱者となっていってしまう。

 社会的課題解決には重層的な取り組みが必要である。そしてそのためには、システムダイナミクスに基づく戦略的な取り組みが必要である。官僚機構は、夫々の役割に基づく分掌を果たすために最大効率化が図られた組織である。企業は利潤を追求するために徹底的に経済合理性を追求する組織である。政治は国民や地域住民の利益を追求し戦略的に意思決定をする役割を担っている。しかし、夫々に自らの組織の縄張りを争う意識、既得権益を守る意識、組織の安寧を第一に考える意識が常態化することで、組織の縦割りが進み、忖度などが横行してしまう。社会的課題の根本的な原因はこの常態化する組織の縦割り構造であるともいえる。

 人々の意識の改革も必要である。高度経済成長期の成功体験や近代化思想(モダニズム)を支えた上意下達の組織構造の意識は根深い。脱近代化思想(ポストモダニズム)が広がり多様性が重視される様になったとは言え、雇用や昇進機会に関する男女の差は相変わらずである。株主重視の経営も当然のこととして受けとめられている。経営者や社員が社会的課題解決を意図しても、株主の利益につながらなければ実行することはできない。株主自身が投資利益に執着している限りにおいて、企業が社会的課題解決に真剣に取り組むことはできない。最近になってESG投資が広がってきたが、環境を配慮せず、労働環境を改善せず人権軽視と社会的に批判され、法令に基づいた経営がなされていないと見做された場合に不買運動や損害賠償が発生し、企業ブランドが低下することの影響で株価が低下するリスクが少ない企業を選別して投資しようという文脈が背景にある。

 社会は少しずつ変化していく。ロボットや人工知能技術が進歩し職場や生活の場での利用も広がっていく。ソーシャルネットワークが社会に普及し人々は世界とつながり自ら知識を収集し情報を発信していく。政治家がソーシャルネットを活用したポピュリズムに走り、保護主義や一国主義が横行し社会は分断され始めている。こうした変化の流れの中で社会的課題も変化していく。真に大事なことは、未来社会の持続可能な発展に向けた取り組みであり、今、起きていることだけではなく、その及ぼす影響とその先への影響の広がりを読み解いて、まさに、システムダイナムクスの発想によって、社会的課題をどの様に解決していくかを統合的な視点で思考していくことが必要である。

サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一

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