#205 投資や融資、公共投資、補助金や助成金に頼らず産業を進化させるシステム

 20世紀は大量生産・大量販売・大量消費という工業化によって近代化していく時代だった。それは、儲かる事業に投資して産業化を図っていくという発想に支えられ、その一方で、利益を出せない生まれたての事業(将来利益を生み出し得る有望な事業)については補助金を出して公的資金により支援していくという発想の政策がとられてきた。社会生活を支える共通の基盤は、直接、利益を生み出し得ない分野であり、そこには公共投資が必要となるが、公共投資は経済活性化や雇用創出の手段として使われてきた政策でもある。

 こうした20世紀型の産業はキャッシュフローが全てだったが、21世紀になるとキャッシュフローを生み出す源泉がモノではなく知識に移り、大量生産・大量販売・大量消費によって利益を生み出してきたビジネスモデルは時代遅れとなってきた。人々が情報や知識をやりとりする情報通信技術はローエンドの漸進的イノベーションが支配する産業分野であり、当然のことながら、そこでは低価格競争が進んでいくしかない。今や、低価格の通信料の下で動かすことのできるアプリケーションが多くの収益を生み出している。そして、そうした分野に人(アプリケーションを構築する知識を持った人)が集まり、投資家の資金もそこに集まっていく。

 しかし、アプリケーションというソフトウェアの開発は、大勢のプログラマーが労働集約型の産業として、大量生産・大量販売・大量消費の発想で働いているというのが実態である。すなわち、知識そのものが価値を生み出しているとはとうてい言い難い。一方、高いスキルを持ったデザイナーは、企業に属さずフリーランスとして収益を得て生計を立てている。こうした人達は自分の持っている磨き上げたスキルや深い知識、匠の技を持っている。

 20世紀型の産業の下で成長してきた企業は、高い固定費に喘いで、新たな産業を生み出す力を失いつつある。一方、新たな発想のアイデア、磨き上げたスキルや深い知識、匠の技を持つベンチャー企業やフリーランサーは身軽であり、知識を価値に変えるビジネスモデルで色々なことに挑戦することができる。21世紀のこれからの社会を支えるのは、こうした人達が起こす産業であり、ベンチャー企業やフリーランスを活かして経済成長を実現していく社会の仕組み、すなわち、新たなタイプの産業を進化させるシステムの構築が求められている。

サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一

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