#161 ネオモノづくり文化の社会になる

 日本人は「匠」や「モノづくり」という言葉が大好きであり、そこにはなんとなく郷愁を感じてしまう。また、高度経済成長をけん引したのは「匠」や「モノづくり」の技術であり、これからも日本という国を支えてくれるものと信じている。高度経済成長期に活躍したOBたちの中には、自分達が築いてきた「匠」や「モノづくり」の技術を次の世代に引き継いでいかなければ日本の社会を支える産業は危うくなると危機感を募らせている人も多い。

 「匠」や「モノづくり」の技術を支えているのは、他者はモノに対するきめ細かい心遣いでもある。しかし、地方での過疎化(限界集落化)と都市化により人々は孤立し孤独化が進んでおり、こうしたきめ細かい心遣いをする場が失われつつある。また、成果主義が導入されることによって、「自分さえ良ければよい」「目標を達成しさえすればよい(言われたことをやればよい)」という風潮となり、お互いに助け合って働く働き方の環境も壊れている。

 日本人は組織の結束力で行動すると力を発揮する傾向があり、個々の力ではなし難いことでも力を合わせて壁を乗り越えていくことに長けている。その根源にある思考(行動湯式)は他者へのきめ細かい心遣いであり、お互い様という気持ちで献身的に働くことを厭わない。これは契約主義が染みついた人たちには到底理解できないことである。グローバル化が進むに連れ、こうした日本人の思考様式に異を唱える人も多くいるが、決して否定する必要はない。

 グローバル化の中で日本が埋没すると危惧する原因の顕著な例として、過去の失敗事例を取り上げて日本人の特性を卑下することもできるが、日本における失敗の多くは、トップリーダーが未来社会全体を捉えた展望やビジョンといった構想力に欠け、また、ミドルマネジメントにいる人たちが、組織の中での保身に腐心し、今ある組織を守ることばかりに執着した時に起きている。こうした状況に陥ると、日本人の組織の中で献身的に心遣いをもって働く日本人の特性は、ひたすら失敗へと向かって作用してしまう。

 一方、今の日本人は、かつての会社人間からクオリティオブライフへと向かい、多様性を重視していこうという意識へと発展してきている。複業化やフリーランスとして生きていこうという人も増えてきており、地域コミュニティやボランティア活動への参加や社会的課題に挑んでいる人も多く、また、リアルワールドだけでなくバーチャルワールドでも、色々なつながりを持っていきている。そして、新たな環境の中で、日本人の心遣いのある働き方や思考様式は受け継がれている。

 こうした社会的存在となることによって、日本人には、個々人が自立していく意識が高まってきている。情報技術が普及した現在においては、先を読み解いていく情報がトップリーダーに偏ることはなく、むしろ、個々人が多様な視点から情報を捉え、社会環境に直接触れてなすべきことへの知識を獲得している一人ひとりとして、創造すべき未来社会の価値を認識している。高い意識を持つ個々人が、他者への心遣いを持って、お互い様の気持ちで献身的に協働していくことで、未来社会に向けての価値を創造していくことができる。そこには、欧米流の分権化や集権化、エンパワーメント、権限委譲といったマネジメントの考え方は、もはやそぐわない。

 契約主義の国の人たちと比べ、もともと他者へのきめ細かい心遣いを持って協働して結果を出していく素養が身についている日本人にとって、新たなモノづくり文化の社会、すなわち、ネオモノづくり文化の社会が近づいてきている。それは世界に対して誇れることであり、今度は、モノづくり文化の社会に根付いている思考を世界に広げていく番である。

サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一

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