#127 生きることの哲学が心を揺さぶらなければイノベーションにはならない

 イノベーションを興すには、ゆるぎない信念、不屈の努力が必要かも知れない。事業を起こすだけなら、思いつきのアイデアでも良いが、プロダクトとしての深化、プラットフォームとしての進歩、社会的風土の変容、社会システムの進化を成し遂げていくためには、多大な時間と労力が必要であろう。
 顧客の満足を得るためには、顧客ニーズを把握して提供すればよい(とは言え、これだけでも大変なことである)。しかし、社会を変えていこうというイノベーションは、それだけでは済まない。それが目に見えてくるまでには、自分自身の時間や資金を犠牲にしなければならず、それだけの努力が実って初めて他者、社会が価値を認めるのである。
 自分自身をそこまで動機づけするもの、他者の心を惹きつけるもの、社会を変えうるものとは、何であろうか。思いつきのアイデアに価値がない訳ではないが、思いつきだけでは、一時の情熱を燃やせても長続きはしないだろう。イノベーションには、それが生きることの本質に深く関わり、自己犠牲を払ってでも成し遂げたいという思いが自己実現とも結びついていることが必要であろう。そして、そこには人生を賭ける覚悟も必要となる。
 今の日本に、何故、イノベーションが興らないのか。成果主義が一般化して終身雇用の保証がなければ、事業に携わる人たちや金融に携わる人たちに人生を賭する覚悟はできまい。起業家にしても、自己犠牲を払い続けることは不可能であろうし、むしろ、黒字を生まない事業を続けることに対する社会の目は厳しい。投資家も、そうした事業には目もくれない。
 しかし、こうした事象を引き起こしている本質的な問題はどこにあるかと言えば、おそらく、日本人が「生きることの本質に心を揺さぶられる文化」を醸成していないからなのではないだろうか。
 イノベーションを興すには「生きることの哲学」を追求しなければならない。そして、社会も「生きることの哲学」に心を揺さぶられなければイノベーションにはならない。

サステナブル・イノベーションズ株式会社 代表取締役社長 池邊純一

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